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問屋の仕事場から

2020.08.01
「鬼滅の刃」でクローズアップされる麻型

大人気の「鬼滅の刃」、本作のヒロインである竈門禰豆子(かまど ねずこ)の着物柄は「麻型」と呼ばれる伝統的な和柄です。

麻型は大麻(ヘンプの)葉の形を抽象化して柄にしたもので、実際には大麻葉の枚数は奇数ですが六角形のハニカム形状の繰り返しとなっています。この幾何学柄は日本独特の柄として数百年にわたって使われてきました。

麻の葉、5枚、7枚というように本来葉の枚数は奇数である。

大麻というと薬物などのネガティブなイメージが先行してしまいますが、昔は麻といえば大麻のことを指し、そこら中に自生する一般的な植物でした。昨今では麻型を一目見ただけでそれと想定することのできない人が多いのではないでしょうか。

麻型の近江上布、柄は緯絣で作られている。

日本では木綿が普及するまで、服地のほとんどは麻布であり、それらは大麻からつくられていました。大麻の茎の繊維を裂いて一本一本糸を作り、原始的な腰機で時間をかけて織られていたのです。現在では近江上布の一部でしか見られなくなりましたが、日本人は大麻からできた布を身にまとっていたのです。

大麻の茎を裂いて乾燥させたもの。神々しい黄金色に輝く糸になる。

身近な麻(大麻)を幾何学模様に表した麻型は日本人のDNAに刻み込まれ、大麻の栽培が禁止された今でも数百年という時を超えて愛され続けています。

麻型の大島紬、経緯の絣柄で美しく表されている。

 

世界へ羽ばたく和柄文化

鬼滅の刃に登場する各キャラクターは各々の和柄(伝統柄)がアイコンにもなっていて、版元の集英社はこれらを商標出願、昔からの普遍的な伝統柄を商用利用するとは何事かと様々な方面で物議を醸しています。先般は「アマビエ」が電通によって商標出願されましたが、大変な批判を浴びて出願を取り下げざるを得ない状況に追い込まれました。

今回は服地分野での申請はありませんでしたが、普遍的な和柄を商標で押さえておくことに対して、特許庁の判断を興味深く見守りたいと思います。

ヒロインの着物であるピンクの地色に麻型、肝心の服地分野としては申請はなされていない。

商標が問題なく登録されるかどうかの判断はさておき、「鬼滅の刃」のヒットによって私たちが和柄を再認識することになったのは間違いありません。特にメインの読者である小学生以上の子供達に広く知れ渡った功績は讃えられるべきでしょう。

 

鬼滅の刃に登場する印象的な和柄は様々な生地に使われはじめ、生地屋さんでも人気のアイテムとなっています。今年はそれらの生地を使ったマスクが子供の間で大流行しています。

「和柄」でGoogle検索、麻型はもっともメジャーな和柄の一つと言える。

さらにアニメというコンテンツは海を超えて、世界中の人々に受け入れられます。着物というスタイルはなかなか受け入れられないかもしれませんが、コスプレアイテムからでも良いので日本の誇る意匠文化が世界に広まれば素晴らしいことです。

主人公の竈門炭治郎の羽織は市松柄、写真は9マルキ大島紬の市松柄。

緑と黒の一松の大島紬、鬼滅の連載がスタートする前から作られていた普遍的なデザイン。

麻型をはじめとする伝統的な和柄が新鮮味をもって受け入れられ、伝統的な工芸織物にも光が当たる。そのような日が来ることを期待したく、漫画の作家先生方には和柄を積極的に活用頂きたいと思います。そして素材にもこだわり、セリフの中や重要なアイテムで結城紬、小千谷縮、芭蕉布などというフレーズが出てくれば望外です。

 

小千谷ちぢみ(マンガン染)の麻型。

麻型がデフォルメされた能登上布の帯。

力強い一元絣で麻型を表現、技の極みといえる大島紬の逸品中の逸品。

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