木の皮を剥いで繊維を取り出したものを「靭皮(じんぴ)繊維」と…
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問屋の仕事場から
- 2017.08.08
- 素朴な手触りが魅力の「しな布」
しな布はシナノキの樹皮を剥ぎ、糸にして織られた自然布の一つです。様々な自然布の中でも特に自然な色合い、ザックリとした風合い、素朴感が一番ダイレクトに伝わってくるものです。
今回はそんな自然の素朴感あふれる「しな布」の紹介です。
しな布は榀布、科布、信濃布、志奈布などと呼称されています。平成17年に伝統的工芸品に指定された際、「羽越しな布」として登録を受けました。この項では以下「しな布」と記します。
別項で木が布になっていく製造工程を説明していますが、経糸も緯糸もすべてシナノキの樹皮由来の製品です。廣田紬では八寸帯の無地の商品に加え、捩り織りや、絣の商品、男物の角帯まで広く用意しています。
単衣にもあわせていただけますが、粗く織られており、透け感が有りますので夏物に最適です。
夏の上布に合わせてもらうのが定番ですが、夏塩沢や夏大島などの絹の夏おしゃれ着にも合わせていただけます。繊維自体がある程度固さを持っているため、薄く繊細な材質の着尺には擦れによるダメージがないよう少し注意を払う必要があります。
堅い堅いと思われがちなしな布ですが、使用する前日に霧吹きで水を吹きかけておきます。思い切って全体を霧吹きで濡らしてみてください。実際にしな布を織る際には水分を含ませて織られるほどで、水にはとても強くかなりの水分を含ませてもらってもなんら問題はありません。次の日には実に柔らかくしなやかな締め心地が得られるはずです。
しな布の生地をを拡大してみます。
粗い繊維質が肉眼でも拡大でき、がっちりとした風合いが伝わってきます。どこか懐かしい自然の香が強く伝わってきます。自然由来が目で確認できるとうれしいのは、化学物質に囲まれた暮らしの中で本能的に「自然回帰」を望んでいるからでしょう。すべて自然布で身を纏うことは少し難しいですが、帯がその役割をしてくれるのは素晴らしいものです。
さらに拡大してゆくと不純物を含んだ木の皮の繊維であることがはっきりとわかるようになります。
木の皮の繊維がそのまま伝わるリアルさ、数ある自然布の中でも素材の原型を一番とどめているのがしな布です。
自然の風合いが色濃く残る魅力的なしな布ですが、作り手の後継者不足、材料の確保が困難なことから遠くない将来は製造ができなくなることが予見されます。
引き続き別項ではこの木の皮の繊維がどのよう細い糸になってゆくかを紹介していきます。