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問屋の仕事場から

2019.12.01
畳 ~最も身近な自然布~

日本人にとって一番身近な自然布、それはイグサを織り込んだ畳表ではないでしょうか。今回廣田紬の展示会場の一部を畳替えをすることとなり、畳を織物問屋の視点からクローズアップしてみたいと思います。

まず、畳の構造について。畳は畳表、畳床、畳縁の3つに分けることができます。畳を裏側から見るとわかりやすいので、確認してみます。

畳を裏からみる。伝統的な稲藁床で、耐久性、遮音性、湿度調整機能に優れたもの。

ベースとなる畳床に畳表を敷き、黒い畳縁で側面を保護しています。

今回のテーマの畳表、緯糸にはイグサの茎が使われます。近年では化学繊維が使われることもありますが、リラックス効果のある独特の香りはイグサでしかなし得ないものです。

湿地に繁茂するイグサ、畳用のものは管理栽培されている。

イグサの産地としては熊本の八代が有名ですが、輸入品に押されて大半が中国産に置き換わっています。刈り取られたイグサは乾燥させた後、泥染をおこないます。泥染には畳に耐久性を持たせ、独特な香りを増進する効果をもたらします。泥染は大島紬など一部の織物独自の工程かと思われていますが、イグサの各産地でも独自の泥染が行われているのです。

イグサは緯糸にのみつかわれ、経糸には綿や麻が使われます。

写真の畳に使われている緯糸の本数は4000~5000本、目が詰まっていればいるほど高級とされています。

組織の拡大、イグサの茎が一本一本隙間なく強く打ち込まれている。

茶室などに使われる畳の目数は64と決まっていて、寸法も細かな決まりがあります。経糸には綿糸や麻糸が使われています。一目には経糸が1~4本入る構造になっていて、高級品は経糸に64目×4本=256本が使われているということです。廉価品は化学繊維であったり、経糸の数が一目に1本というケースもあります。

畳表を割いて中をのぞいてみました。

この畳の経糸には一目の間に綿糸と麻糸を2本づつ使われています。畳表は経糸と緯糸が一本づつ交差する平織ではなく、諸目織りと呼ばれる織り方で織られています。経糸が表にでることはなく、表裏が同じの畳表は、片方が擦れたりして摩耗すれば裏を返して使うことができます。

強く打ち込まれたイグサ、目が詰まっていればいるほど高級品で上部になる。

先染め織物である紬も表が痛めば裏返して仕立て直すことができます。普段使いで摩耗する消耗品として、できるだけ長く使えるような知恵、ものを大切にする日本人の心が両者に見て取れます。

現在では畳表は機械で織られていますが、昔は手織りで作られていました。足踏みで縦方向に織っていく独特の織機は緞通の織機のようで大変興味深いものです。

畳の手織り織機、縦方向に織られていく。

現在これをするとなると、一枚数十万という価格になってしまいとても内装材として使えるものではありません。しかし手織りの味を畳表に求める数寄者がいるかぎり、技術は伝承されていくことでしょう。

参考までに畳が製造される様子の動画(科学技術振興機構製作)のリンクを貼っておきます。

 

現在では畳のない家が増え、新築マンションの間取り図では畳が姿を消してしまいました。畳(和室)がなくなるということは日本文化の消失と同義で、着物業界としても大変残念なことです。しかし最近の若い人には和室が新鮮に映るようで、注目を浴びていることは確かです。

敷き物としての「ござ」、畳表そのものである。

畳を家に敷けないのであれば「寝ござ」がお勧めです。畳表はゴザとしても使われ、敷き物として使われています。ひと昔前は夏の敷布団として当たり前のようにどの家庭でも使われていたものでした。

「い草シーツ」や「イグサマット」として商品化、ホームセンターなどで販売されていますので、これなら気軽に購入することができます。ノスタルジーを感じる布を現代の住空間に置いてみてはいかがでしょうか。

 

2階新館広間、一斉に畳を総入れ替えをするとなると大変なことである。

以下、畳替えの様子です。

京町家造りの廣田紬の社屋には大小200枚ほどの畳があります。長年使っていれば人の往来などで表面が摩耗してささくれ立ったり、縁のところが擦り切れてしまいます。そこで畳表を入れ替えるのですが、一枚だけだと、色が異なり目立つので部屋ごとの交換になります。

今回入れ替えたのは旧館の2F広間、大小25枚ほどの畳が敷き詰められています。

広間の畳は年季の入ったアンバー色に変化、自然光が二面から差し込むことから紫外線の影響も受けています。

破れた縁の部分、どうしても縁にダメージがかかりやすい。

今回は畳表だけの交換です。畳床は床材の形状の癖がついているので、元の場所に収まるように一枚一枚、チョークでマーキングしていきます。

緑色の床は防虫シート

一枚一枚、担いで運びだしますが、一枚当たりの重さは30kgオーバー、大変な重労働です。

床材がむき出しになった広間、畳の厚みは2寸(曲尺)と決まっていますので、床上2寸は隠れることになります。

トラックの荷台に乗せられた畳、光を浴びてない側面は色が異なっていることがわかります。山のように積まれた畳はトラックの積載重量ギリギリの1トン近い重さ、軽トラックの積載重量(350kg)では到底足りません。

新しく敷き詰められた畳、イグサの何ともいえない香りがします。泥染された畳は少々粉末が残っているため、雑巾でしっかりと拭き掃除をします。

 

すっかり新しくなった旧館の広間、青々しい畳も時間ともに徐々に飴色になっていきます。リラックス効果があるというイグサの畳表、来場された方はその新鮮な香りに注目してみてください。

 

 

実は去る11月25日、TV番組(朝日放送の情報番組「キャスト」)の畳特集にて廣田紬の1階の座敷、茶室が紹介されました。

京間の一畳と江戸間の一畳ではサイズが1.2倍ほど異なります。生産性に優れたコンパクトな江戸間畳(イグサの長さが短くても製作できる)が江戸で規格化されていきますが、そのサイズの差を利用して徳川家康が検地に使ったそうです。今まで京間でカウントされていた面積が、狭い江戸間に突然変わったわけです。その差額がそのまま税収増となったわけで、その強引な徴税手法からは「ずる賢い」といわれる家康の人となりをうかがい知ることができます。

 

以上、日本人にとって最も身近な自然布ともいえる畳を取り上げてみました。続編では畳縁に使われている特別な生地、高宮縁について解説します。

※廣田紬では畳表の取り扱いはしておりません。