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問屋の仕事場から

2019.04.29
結局最後に行きつくのは結城紬 

世の中には様々な紬があふれ、産地ごとの特徴ある品々に目移りしてしまいます。豊かな多様性が魅力でもある工芸織物の世界ですが、あれこれ試して結局最後は結城紬に落ち着く方が多くいらっしゃいます。

※本HPでは特に断りがない限り本場結城紬のことを結城紬と記しています

「安物買いの銭失い」という言葉があります。最初に安価なものを購入するも、品質や仕様に満足できず、結局別の物を買い替える羽目になりムダ金が生じるということです。他の貴い手仕事の布々を「安物買い」というにはかなり語弊がありますが、それほど結城紬の風合いが魅力的ということです。

結城紬が他の紬と決定的に違う点は次の2点に尽きます。

・真綿から手でズリ出した手紬糸(無撚糸)を使う

・腰で経糸の張力を調整する地機を使用する

結城紬の特徴は手紬糸を地機で織ることである。 @おやま本場結城紬クラフト館のミニチュア織女

他の紬は紬と名がついていても紬糸を使っていないケースもありますし、流通ベースでいうと緯糸の一部のみというケースがほとんどでしょう。ましてや経糸と緯糸に100%使う本来の紬(諸紬)はほとんど存在しないといっても過言ではありません。無撚の手紬糸を100%使用した結城紬はフワッとした綿のような軽さを持ち、上糸を固定しない地機(経糸に無理な張力が加わらず、織子さんとまさに対話しながら織られる)で織り上げた生地は極上の地風に仕上がります。

趣味の世界においては様々なピンからキリまでがありますが、紬というカテゴリーの中で最上位は決定的に結城紬なのです。

 

製造者がプライドをもって作る紬

自他ともに認める最高級品である結城紬、その工程はすべてといってよいほど手仕事で作られていますので、価格も様々な紬の中で群を抜いて高価なものになります。手間のかかった総詰柄の商品であればそこそこの自動車が買えてしまうほどの価格になることも珍しくありません。

亀甲絣が全体に敷き詰められた総詰柄の商品、製作に1年以上を要する。

結城紬は分業制で作られていて、意匠、糸作り、染め、織、整理・・・様々な工程にそれぞれ違う人が関わり、壮大なリレーとも言うことができます。長い時は一年越しのリレーとなるわけですが、全員が最高の紬を瑕疵なく作るというプライドを持っています。特定の産地を悪く表現するわけではありませんが、フェラーリのエンジンを作る熟練工と軽自動車の部品を作る期間従業員くらいの意識の差があるといってよいでしょう。最高の紬を作るためには手間暇を惜しまない最高の技術が使われています。

そして最終消費者につなぐアンカーである販売店、大変な高額品である結城紬をお客様に責任をもって説明、お届けできるお店というのは一流である証でしょう。

地味に見える整理工程でも職人技とこだわりの世界。楽な機械乾燥は使わない。

そして極めつけは容赦のない検査基準です。全国の各織物組合では検査機能がありますが、身内に甘く形だけの最低限の検査が行われてるところも珍しくありません。廣田紬では商品の受け入れ検査(検反)に人一倍力を入れていますが、検査合格印が押されていても首をかしげたくなる商品が多々存在します。そんななか、結城紬はやりすぎと言えるくらい検査が徹底されています。

不合格印の押された証紙、検査員は心を鬼にして押印しなければならない。

長さ、巾といった寸法は勿論のこと、打ち込み不足、ムラ、毛羽、よこ段、染不良といった15項目にわたる検査がなされます。一項目でも該当すれば不合格、容赦なく不合格印が押されてしまいます。B反となった結城紬は価格を落として販売せざるを得ませんから、織元(縞屋)にとって大変な損害となります。結城紬の現在の生産数は月に80反前後(帯20程度含)、そんな中で不合格品はどうしても毎月数反発生しています。

例えば先月(2019年3月)の検査では160亀甲の飛び柄の検査反数は3反、内2反がNG判定されるという恐ろしい事態が起こっています。仮に全体のNG発生率が5%としても、このような数字は他産地ではありえないことで、製造の困難さとそれを厳格に審査する検査レベルの高さがうかがえます。

結城紬は卸商、生産者など複数の各組合が独立して存在していますが、検査組合も本場結城紬検査協同組合という名で独立しています。昔は県によって公務員が検査を行っていたほどで、その厳しくも公平な検査は今に引き継がれているのです。

 

結局最後に行きつくのが結城紬

着物は品物が上等かどうか、素材にかかわらず、一定の仕立て代も発生することからファストファッションの洋服感覚で買うことができません。その中でも、もはや着道楽の趣味である紬はおいそれと買うことのできない贅沢品です。安物買いの~ではありませんが、いろいろと回り道をするくらいであれば最初から最高のものを誂えておくのが正解なのです。

 

結城縮の雨絣。シンプルながら秀逸な意匠、突飛なデザインが少ないのも結城紬の特徴。

着物ビギナーの素人にやみくもに結城紬だけを勧めているのではありません。産地の歴史、伝統が伝わる良い織物は他にもたくさんあり、結城紬にはできない素材感、意匠、織組織といった優位性もあることでしょう。あれこれ楽しむのがファッションの醍醐味でもあり、様々な織物にトライすることのできる稀有な環境を楽しめるのは素晴らしいことです。

結城紬と双璧をなす大島紬、糸質から違い完全な別物といえる。

しかし各織物の特性を理解したうえで最後は結城紬のみという方が多いというのは事実です。結城紬の品質を基準に、俯瞰して他の織物を捉えることで「安物買いの~」を極力避けることができます。結城紬の魅力を知ったうえで、他の織物も楽しむ。普通は価格に応じてステップアップするものかもしれませんが、良いものを知ってからではないとなかなか見えてこないものがあります。

数ある伝統工芸織物を試すにあたって「あがり」である結城紬、最初の一着を結城紬にすることで今後の着物生活を確実に豊かにしてくれることでしょう。

まずは無地から、一反から特段のコストを要さずに誂えることができます。