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問屋の仕事場から

2024.09.30
写真で着物の正確な色を伝えるには

着物の写真が画像データで送られてきたものの、届いた現物は全然イメージと違ったことはないでしょうか。スマホで撮影しようとすると表現できない色がある時はどのようにすれば良いでしょうか。今回は着物の色を正確に伝えるにはどのようにすれば良いかを解説します。

呉服の商売の現場では難しい色使いの単語が飛ぶことがあります。「利休鼠」「甕覗」「鶸色」、、、多くの人はこれらの名前を聞いてピンとこないのではないでしょうか。日本には古来から様々な色表現があり、例えば一口にピンクといっても桜色、薄紅色、桃色と様々な表現をすることができます。その数なんと1000以上、全て草木染めのレシピがあると言うのですから凄いことです。

人が見分けられる色は約100万色以上(個体差があり1000万色以上の人も)と言われていますが、これらすべてを言葉で表すのは無理です。ところが光の三原色(RGB)の0〜255の階調を組み合わせることで約1677万種類に定量化することができます。

たとえば先ほどの「利休鼠」はR(赤)123、G(緑)129、B(青)116というように固定化することができるのです。

しかしRGBでいくら定量化できると言っても、鶸色と言われて思い浮かべるイメージは人それぞれです。Googleで「鶸色」と検索すると様々な鶸色が出てきますし、色の整合性は一応とれているものの、はっきりと色の違いが見て取れます。これは規格化された色があるものの、人が感じる振れ幅はかなり広いということです。電話口でお客さんに「鶸色の着物」と言ってもイメージの振れ幅がありますし、1000程度の言葉では到底足りません。

言葉で色を伝えるのは限界がありますが、現代では商品の写真画像を簡単に送ることができる時代です。さっと手元のスマートフォンのカメラで撮影してLINEで送り、商品イメージを伝えることができます。

百聞は一見に如かず、写真を送ってしまえば商品イメージを簡単に伝えることができます。

スマホ写真で正確な色を伝えるのは不可能

一般の人が携帯電話で写真撮影、送受信できるようになったのは2000年のこと、20数年の間に驚くべき進化を遂げました。誰でも簡単にキレイな写真や動画を撮ることができるようになり、デジタルカメラ、ビデオ市場を駆逐してしまうほどです。

しかしどれだけスマホのカメラが進化しても正確な色を伝えることは難しいのが現状です。

最新のスマホ(Xiaomi14Ultra)のカメラ部、5000万画素という高解像度を謳う。

確かに昨今のスマホ画像はキレイで満足な写真を撮ることができますが、その写真が真の意味で高画質を取得できるかは別の話です。薄い筐体に収めたレンズの設計は無理が生じ、小さなセンサーに高画素を詰め込んだ結果、画質が破綻した分はAI等による人工的なで不自然な補正がかかっています。写真を撮ることに特化した専用機(従来のカメラ)にはかなわないのです。

さらに人間の目はカメラより広い範囲の色を認識します。カメラによっても得手不得手のある色があり、何も考えないで撮影すると大きく色味が異なってきます。

 

例えばこちらの青系の色の部分が良い例です。何も考えずに撮影したのがA、実際の見た目のBに近づけるため手動で色補正を行なったものです。特に青と緑の中間色方向の色についてはデジタルカメラが表現できる幅に限界があり、できるだけイメージカラーに手動で近づけてやる必要が出てきます。

写真表現で人間の目で見たイメージを再現するのは不可能であり、特殊な撮影や理想的な閲覧環境をもって初めてベストな色に持ってくることができます。これらはCMS(color management system)と言いますが、詳細は少々専門的な別稿で参照いただければ幸いです。

色域図、そもそもインプットの時点で写真データがもつ色域は限定される。

正確な色を出す簡単な撮影方法は

写真表現で相手に色を正確に伝えるためには、以下の手順を踏む必要があり非常に手間がかかります。

1、色覚異常のない者が撮影、編集作業を行う(高齢者は好ましくない)

2、被写体が余計な色被りをしない撮影環境(壁、天井、床が無彩色)を整える

3、演色性の極めて高い光源(被写体の確認をするための定常光も含む)を扱う

4、正確な色データを取得できるカメラで撮影する

5、色データを正確に表示することのできるモニターを使う

6、実際の色と肉眼で比較して相違点の補正を行う

7、得られたデータを広い色域の規格で出力する

8、周囲の環境から余計な色被りをしない環境で閲覧する

9、正確な色表現、広い色域を表示できるディスプレイ、モニターで閲覧する

10、広い色域を表すことのできるブラウザで閲覧する

11、色覚異常のないユーザーが閲覧する

写真の色合わせは壮大な伝言ゲームでもあり、一つ狂うだけで正確な色を伝えることはできません。一般の人が専用の機材を揃えて、理想的な環境を整えることは不可能です。

専用スタジオでないと正確な色は出ない。

しかし100%は無理でも80%くらいでイメージが合えば、素人がやりとりする色転びがない画像データとして及第点を得ることができるのではないでしょうか。現代の機器、インフラの進化でほとんどの人が満足のいく色データを取得できるはずです。

1、無彩色の空間において自然光の下で撮影する

和室は土壁や木材の色が被写体に写り込むので避けて、可能な限り白い壁の空間で撮影を行います。太陽光が差し込む窓の近くで撮影をします。窓がなければ暖色系以外の光源を使って撮影を行います。昔ながらの電球が光る暗い和室での撮影は大きく色が転ぶため、面倒でも事務所などの白い壁、白い蛍光灯の下で撮影しましょう。あたり前のことができない人が多く、これだけで色が大きくずれ込むことはないはずです。

2、スマホで撮影する際にはiPhoneを使用する

iPhoneのカメラ自体が高水準の画質を得ることができる上、アップル製の端末(iPhone7以降)のディスプレイはP3という比較的広い色域を表現することができます。そして日本人の6、7割がアップル端末のiPhone、iOSを使っていています。iPhoneで撮影して画像データを送る際にも相手がiPhoneで受ける確率が高いことになり、データの再現性が高まります。入出力端末のディスプレイ性能、OSが共通なことは大きなアドバンテージです。

3、SNSアプリでは画像の劣化に注意する

多くの人が画像の送受信に簡単で便利なLINEを使っているかと思います。LINEで画像を送る際はデータサイズを落とすリサイズがなされることはご存知だと思いますが、実は画質の劣化も起こっています。iPhoneの場合オリジナルの画像はP3の鮮やかな色域で見えているはずですが、LINEを一度経由した画像は色域の狭いくすんだ絵になっています。自動変換されてしまうSNSを扱うときは一手間かけてオリジナル画像データで送付する注意が必要です。

以上、現代においては簡単な工夫をするだけで、ある程度正確な色の写真を送ることができます。商品イメージを伝えるだけなら大抵の人が納得してくれることでしょう。

正確な色表現が必須な着物のECサイト

着物は高額品ですから、ECなどの場では正確な色表現が必要です。着物を写真だけ見てネット販売で購入したものの、実際に仕立て上がった現物が写真と違う事態は避けなければいけません。反物を裁断して仕立ててしまうと、返品対応が困難になってしまうからです。

トラブルにならないためには顧客に対して、正確な色表現で提示する必要が出てきます。

廣田紬の工芸撮影部(CRAPHTO)では正しい色、超高精細画像で撮影、運用することができるシステムを提供しています。

文化財をデジタルアーカイブするレベルの機材、技術で着物や帯の写真をこれまでになく高画質に保存することができます。

着物のプロが行う商品カタログ作成や展示会DM作成、圧倒的な品質とスピードで集客のお手伝いをさせていただきます。

 

 

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