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問屋の仕事場から

2023.03.24
クメール絣、カンボジアの絣織物のこと

先日ギャラリー玄想庵で開催されたカンボジアの伝統織物の展示会から、クメール絣について紹介します。

日本の工芸織物のお家芸と思われている絣ですが、元は東南アジアから伝わったものです。日本のような多様性はないものの、伝統工芸織物として各地に残っています。先日の韓国のポジャギから続き、海外織物紹介第二弾として今回はカンボジアの伝統工芸織物に焦点をあてます。

展示の主催はIKTT(Innovation of Khmer Traditional Textiles)、クメール伝統織物研究所(アンコールワット近郊の工房)によるもので、ギャラリー玄想庵での開催は初めてです。3月18、19日と2日間にわたり、クメール織物を中心としたIKTTオリジナルの布の展示、販売が行われました。

呉服問屋の貸しギャラリーに異国の布が展示されるという珍しい組み合わせでしたが、伝統的な社屋とアイテムがとてもマッチしていました。

結城紬の看板×クメールシルクのレアな組み合わせ。

手に取りやすい袋物、ショール、アクセサリーなどの小物の販売もありました。カンボジア産のカシューナッツやチョコレートなども販売されていて、こちらが驚くほど美味しいものでした。

小物類の展示、ボードには作り手の紹介もされている。

話が逸れましたが、カンボジアの絣、染織文化について紹介していきます。

ゴールデンシルクから生まれる美しいピダン

カンボジアの布の中でも工芸美を極めたものがピダン(Pidan)と呼ばれる絣織物です。冠婚葬祭や宗教儀式などでタペストリーなどとして使用され、伝統的モチーフが特徴の大変手の込んだ織物です

長さが2m程度の経絣で模様が構成されていて、大変軽いものです。地色に赤紫色ベースが使われているのも特徴、全てが地元で採れる自然染料が使われ100%草木染めです。

実はこの織物、平織りではなく綾織になっていて、風合いがとてもしなやか、生地にも裏表があります。

柄は伝統的なもので200種類以上があります。その中からIKTTが現代の感覚に適したものを選び製作、伝統を未来に繋げています。

驚くべきは保存された図案といったものが存在しないことで、製作者が不在となってしまえばリピート製作が困難になってしまうとのこと。幸いなことにカンボジアにおいては引き継ぐべき世代のサイクルが早いことから、後継者不足は日本ほど深刻ではないようです。

基本的にはシンメトリーデザインで、柄の繰り返し。

使われている絹糸は「カンボウジュ」と呼ばれる黄色の糸を吐く蚕によるもので、「ゴールデンシルク」とも呼ばれる美しい絹です。

品種改良されて白い糸を吐く従来の絹糸と比べて、シルク本来の自然な良さが残っています。さらに機械ではなく、繭から手で引いた糸は味のある人の温もりが残る糸です。

新しい色使いに挑戦した土色の商品。伝統をまもりつつ新しい挑戦も行われている。

カンボジアでも効率化の波が押し寄せ、土産物などに使われるものは機械製糸の糸、化学染料、動力織機がつかわれています。しかしIKTTの工房では伝統的な手引き、草木染め、手織りで商品づくりが行われています。

日本にも様々な素晴らしい伝統的な布がありますが、呉服という少々いびつな構造の市場の生き残っている状況です。カンボジアのピダンは伝統を変えることなく生き残ってきたことに驚きです。

アンコール時代まで遡るストーリー背負い、作り手の想いが込められた伝統の布の将来が楽しみです。

※ピダンは廣田紬での取り扱いはありませんので、お問い合わせはIKTT様にお願いします。

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