最高級の紬織物である結城紬、無地であれば特別なコストを要する…
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問屋の仕事場から
- 2022.06.10
- 交差する手紬糸 結城紬の200色見本
資料の整理をしていると結城紬の貴重な色見本が発見されました。
昭和41年(1966)に栃木県紬織物指導所(現 紬織物技術支援センター)が発行した生地見本です。
20種類の異なる色の経糸をベース(薄色と濃色は10色づつ配置)にして、それぞれ10種類の異なる色の緯糸を組み合わせたもので、200色にも及ぶバリエーションを作り出したものです。
経糸と緯糸の色が異なりますので、普通の無地ではありません。ゴケ無地と呼ばれ、色の組み合わせによっては玉虫色に見える独特の質感が生まれます。洋装の世界ではシャンブレーと呼ばれ、霜降りのような生地感を演出してくれます。
大変高価な結城の手紬糸ですから組み合わせに失敗するわけにはいきません。現在では織物シミュレーションソフトの発達である程度の色のあたりをつけることができますが、昔はこのような色見本を見ながら理想の色に近づけていったのかと思われます。
この見本帳は結城紬製造に関わる業者にのみ配布されたもので、結城紬の生産が旺盛だったからこそ可能な贅沢な代物です。
当時廣田紬においては社内に図案師をおき、結城に拠点(株式会社結真紬)を設けて製造を内製化していました。室町の問屋が製造にまで関わるのは異例のことでしたが、モノづくりの根幹に関わることでこそ廣田紬が理想とする品質維持とコストの両立が可能となっていました。
資料の中を覗いてみましょう。ベースとなる経の色糸があり、それぞれの色糸を組み合わせていきます。
例えば薄い土色のような経糸に薄藍(2)、水色(3)、草色(4)の緯糸を組み合わせると、、
3種類の組織を拡大してみます。
※簡易装置で撮影しているため色調整の都合で経糸が白めに写り、各ホワイトバランスが崩れています
経緯の色が違うのがわかりますが、緯糸が経糸より細いという結城紬の特徴もよくみて取れます。結城は縞が立つと言うのはこのことで、経糸の方がより色構成に大きな影響を与えることがわかります。
当時廣田紬だけでも年間に2000反以上の結城紬を生産という状況で、無地だけでも数百反作っていたことでしょう。当時の見本帳を見ると今では考えられない豊富なカラーバリエーション、今では客先からオーダーを受けないと絶対に作らないような冒険色も散見されます。
古き良き時代の貴重な資料、織り上がるのは半年ほどかかりますが、同じ生地を再現して別誂することも可能です。今では珍しくなったゴケ無地、一度挑戦してみてはいかがでしょうか。
※現在では使用禁止となった染料もあり、完全再現できない色もあります。
※糸の質や製織の具合に左右され見本通りの完全再現は困難です。