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問屋の仕事場から

2022.06.03
幻の「琉球」芭蕉布 圧巻の裂地集

「琉球芭蕉布」と書かれた古書が見つかりました。

廣田紬では社内工事が続き、資料を移動する頻度が増えています。普段開けることのない書庫から今回発見された「琉球芭蕉布」のタイトルの本、上下2巻立てのものです。

発行部数はごく少数、150部限定の発行となっています。発行元の「はくおう社/京都書院」はすでになく、アマゾンなどで運が良ければ稀に見かける幻の書籍です。

著者の辻合喜代太郎氏は京都府立大学の教授、琉球大学の教授を勤められた服飾研究の第一人者で、伝統工芸織物に関わる様々な著書がある方です。この本が発行された昭和47年(1973)は呉服業界は最盛期を迎え、沖縄がアメリカ施政下から日本に返還された年になります。

販売価格は35,000円、現在の物価換算で15万円ほどに。景気が良かったからこそ売れた超高額本である。

この本の特徴として特筆すべきことは紹介されている内容が「喜如嘉の芭蕉布」ではなく、「琉球」芭蕉布だということです。現在、重要無形文化財や伝統的工芸品に指定されているのは「喜如嘉の芭蕉布」です。一般呉服で流通する芭蕉布といえば喜如嘉産のことを指し、それ以外は「粗悪品」というわけではありませんが喜如嘉産はしっかりとブランド力を磨いてきました。

喜如嘉の芭蕉布の証紙、平良ファミリーと地域の人が育てた至高のブランド。

現在は喜如嘉が有名な芭蕉布ですが、昔は沖縄本島全域はおろか、周辺の島々でも作られていました。この本には地域別の特徴など貴重な情報が記載されているのです。出版された昭和47年は50年も前ですが、その頃はまだ方々の地域で細々と芭蕉布文化が残っていたのです。

沖縄戦を経て生産が途絶え、ライフスタイルの変化や地域の高齢化とともに地域の服飾文化が消滅していったことがわかります。

地域の貴重な情報にとどまらず、その成り立ちや製造技法、文様集に至るまで、80ページに渡り芭蕉布尽くしの一冊に仕上がっています。大変内容が濃く、これまで出版された芭蕉布関連の書籍の中でも随一と言えるものです。

上巻の目次、80ページに及ぶ芭蕉布についての記載。

芭蕉布の多様で独自な紋様集。

さらに驚かされるのが下巻です。なんと44枚に及ぶ芭蕉布の裂地が貼り付けられ、一つ一つ解説されているのです。

3年後に発行された日本伝統織物集成(別途紹介予定)という本にも日本全国の織物150種類の裂地が貼り付けられて紹介されていますが、こちらは芭蕉布一点のみにスポットを当てて紹介、そのバリエーションたるは圧巻の一言です。

発行は150部限定ですから、貼られている裂地の面積からすると反物1反まるまる潰したものではなさそうです。残りはさらに大きな生地の資料としてどこかに保管されているのだと推察されます。実はこの本が発行された5年後に「琉球の芭蕉布」という本が350部限定で発行されています。その中にも実物の裂地が貼られていますが、数は僅か3種類ですから、いかに44種類という量の多さがわかります。

見慣れた縞や絣だけではなく、型捺染による柄付が行われていたことにも驚きです。

さらに細く繊細な糸を使った芯皮布、「絹芭蕉」と称される最上級の芭蕉布の掲載もあります。

他のものとは色が違い、生成りの大変美しいものです。

芯皮布はその名の通り茎の芯から取れた糸で作られたもので、それも一部の厳選された芭蕉の茎からでしか採取できません。今ではこのような繊維をとって布に仕上げることは困難で、最上級品は反物の軽さが3〜400グラム台(今生産されている着尺の半分程度)だったともいいます。

芯皮布の組織拡大、こちらはさらに細かな型染めがされている。

以上、「琉球芭蕉布」の紹介でしたが、なんとも豪華な裂地集、染織好き、芭蕉布ファンにとっては垂涎の内容です。

150部限定の琉球芭蕉布、大半が室町の問屋筋にバラまかれた後、倒産、廃業ラッシュとともにいくつかは市場に放出されているものと推察されます。これ以上ない貴重な資料本ですので、どこかでお見かけになった際は迷わず手に入れることをお勧めします。

生地だけではなく材料となる芭蕉糸の掲載も。


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