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問屋の仕事場から

2022.02.10
産地偽装のないクリーンな和装業界!?

中国産のアサリを国産と偽って長年にわたり販売していた問題がクローズアップされています。アパレル分野では外国産が当たり前となっていますが、国産品のイメージが強い和装分野ではどうでしょうか。

結論から言えば現在では法律に抵触するような明らかなクロと言えるものは流通していません(ハズです)。消費者を欺きブランドイメージが失墜するリスクよりも、コストダウン効果が絶大だった時代、北朝鮮産の西陣織、スリランカ産の大島紬、、、出生地不明の代物が散見されたようです。しかし現在ではコンプライアンス意識が劇的に向上したのでしょうか、海外産に対する品質イメージが良くなったからかわかりませんが、令和時代には海外製品を国産と偽って販売している業者は少なくとも製造、卸売段階ではいません。

韓国産の大島紬:姿を消した韓国大島を参照ください。

今回問題になったアサリだけではなく、ウナギやイカ、調味料に至るまで産地偽装が続出しています。市場規模が20兆円とも言われる食品業界は従事者数も多く、全ての国民が消費者として関わります。さらに消費者が直接口に入れ、健康被害につながりかねないものですから、食品衛生法や表示法違反が起こればすぐに大問題となります。毎年のように懲りず違反が続くのは単に母数が大きいからか、従事者のモラルに問題がある、取締まる法律が甘い、消費者もそれをなし崩し的に容認しているか、、、何れにせよ市場規模が縮小(食品の100分の1)してしまった和装業界にとっては、監督官庁を始め、メディア、消費者の温かくも厳しい目が常に向く事はありません。

 

純国産の着物はほとんど存在しない事実

「伝統工芸品」である着物は当然国産であろうというイメージがあります。多くは「国産」を謳っていますし、もちろん法に触れる表記もしていません。しかし消費者は教科書や絵本の中では分かりやすく解説された昔ながらの工程「蚕からとった糸を染め、機織り機で織り上げ、熟練の仕立てで美しい着物が出来上がる」をイメージしますが、多くはそれとかけ離れています。

教科書にあるような養蚕の図、明治五年「養蠶一覧」より

まず原料である糸、例えば国産の生糸は1%以下、ほとんどがブラジルや中国産の外国からの輸入です。大昔はどこの農家でも行っていた養蚕、現在の養蚕農家の数は200戸程度、ピーク時には221万戸(統計の残る昭和4年)に比べて全滅とも言える惨状です。

原料が海外産でも友禅染などの後加工する工程を日本で行われれば、無事国産のレッテルを張ることができます。

海外産の小麦を輸入して日本で製麺すれば立派な国産ですし、現に伝統的?な食品である讃岐うどんの95%以上はオーストラリア産の小麦粉から作られています。付加価値をもたらす加工が日本で行われれば「国産」と称することができるのがセオリー、多くの消費者は原料まで国産を要求するのは現実的ではないとことを理解しています。

小麦製品と同じく、絹も国産では成り立たない。 

しかし縫製に関してのルールは和装分野がアパレル分野と異っていてここが面白い点でもあります。多くの高級着物は反物や仮絵羽の状態で販売されるため、販売時の未完成状態は「国産扱い」です。しかし最後の仕上げとも言える仕立ては海外で行われることが主流です。景品表示法による原産国表示ルールは縫製した国となっていますので、お客様の手元に来た時には本当はベトナム製や中国製となっているのです。

 

 

自動車より高価な純国産の着物

皇室関係や神事に使われるものは海外産品を一切排除する方向で動いているものもあります。さらに愛国精神に溢れる?国産至上主義の方は一定数いらっしゃるもので、純国産品にも一定の需要があります。ただ需要が供給を上回らなければ赤字となり、継続することができませんので、未来に遺すべきものは国や自治体の補助金、一部の篤志家の支援の元に作成されています。

大麻(左)と苧麻(右)の比較

神事にも使われる大麻糸の原料、コスト度外視で作られる。

純国産の糸といえば皇室ゆかりの小石丸、繊維のダイヤモンドとも呼ばれる天蚕糸などが有名で、工芸織物分野では宮古上布に使われる手績みの苧麻糸などが知られています。いずれも数百万円という商品価格がつけられていて、多くの人にとって現実的でない価格になっています。

国産の天蚕、繊維のダイヤモンドと言われてブランド化に成功している。

伝統的工芸品の産地指定問題

最終加工地(縫製国)が製造国となるアパレル製品ですが、国指定の伝統的工芸品においては製品の加工地が指定されています。公の補助金をもらっている伝統的工芸品、特に国のお墨付き証紙である伝統マークが貼り付けられた商品については海外での製造はもちろん、他産地への委託加工はご法度とされています。

伝統マークのシール、中国産のシナ布には貼り付けることはできない。

コストダウン目的に他産地に委託加工するのはなんだか後ろめたい気がしますが、産地が疲弊して製造従事者が減り、一部工程のボトルネックとなった所を他産地に依頼するケースが増えてきました。糸作り、染色、絣作り、整理、織物作りにおける基本とも言える様々な工程が自産地以外へ外注されています。昔のように他産地の技術を取り入れて自産地のものづくりに生かすことが出来れば良いのですが、外注依存体質が拡大すれば果ては商品企画のみという状態に陥りかねない由々しき問題です。

一つ一つ手仕事で行われる。糸作りの様子。

ロマンやヒストリーに惹かれて購買すると言っても過言ではない工芸織物ですが、その工程が国内の他産地で行われている場合、あえて伏せることなくアピールしてみても良いのではないでしょうか。他産地の素晴らしい技術とのコラボ製品、考えただけでワクワクしてしまう組み合わせがたくさんあります。産地指定にガチガチに縛られしまえば物作りが進まない現状、なし崩し的に産地指定の緩和が進むものと思われます。

反物に貼り付けられているラベルの書き方一つで製作者の「人となり」が伝わる。

信頼で成り立っている和装業界

アパレル分野では昔ほど原産国に敏感になる方は減りました。国産品が高品質であるという神話が崩れ、商品の信頼性はブランドに担保されるようになりました。和装分野においてもブランド力は信頼の証、あそこの機屋の商品はどうも怪しい糸が使われている、あの問屋の商品はどうも流通過程が怪しい、この呉服店はボッタクリ価格だ、、、等「信頼」が強い競争力を生み出します。

和装業界は「信頼」で成り立っていて、産地偽装を行うメリット、「余裕」はないのです。

 

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