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問屋の仕事場から

2021.09.17
本塩沢もびっくり、見事な絣調お召織物

絣織物が高額なのは、絣糸を作る手間、絣柄をキレイに合わせる手間がかかるからです。今回はその手間を大幅にカットすることで安価に絣柄を作り出したエポックメイキングな商品を紹介します。

冒頭写真の雪輪の着尺、いわゆる「飛び柄」と呼ばれているものです。
一定のピッチの繰り返し、上下左右に連続して柄を配置するのがセオリーですが、この商品はそのピッチが非常に長く、伸びやかな柄行きに見えます。
さらに複数の色糸が使われている少々凝ったデザインになっています。
緯糸に強撚糸が使われていて、生地表面がシボ立っているいます。いわゆるお召し織物で、サラリとした風合いに仕上がっています。。新潟で作られる塩沢お召(本塩沢)が有名ですが、こちらは十日町で作られていて、本塩沢を名乗ることができません。
この商品ですが、似たような本塩沢や他の絣織物に比べて大変リーズナブル、なんと数分の1というコストなのです。
経絣のみで柄が構成されていることを鑑みても大変なバーゲンプライスです。
この商品はどのような理屈で製造コストを抑えているのでしょうか。
生地をよく観察してみます。
反物の終わりの箇所を見てみると、絣模様がスパっと途切れているのがわかります。普通の絣糸作りでは同じ繰り返しが生地の端まで続きます。
次は生地表面をよく観察、
一定のピッチでうっすらと経糸に縞が浮き上がるのがわかります。絣に見える部分は必ずこの縞の箇所で、柄が浮き上がっています。
感の良い方は気づかれたかもしれませんが、この商品は製織後にこの経糸に後加工して柄を浮かび上がらせているのです。
製造過程は門外不出の秘密なのですが、化学反応を利用したプリント加工を使っていると推察されます。
以前、マンガン絣の解説をいたしましたが、この仕組みを応用すると低コストで絣調織物を製造することができます。
地糸とは異なる特別な化学反応をする経糸を一定のピッチ(今回は7本に1本)で配置し、雪輪の型を置いて加工すると、その箇所だけ絣のように浮かび上がってくるという仕組みです。多色使いも可能なところがミソで、従来のマンガン絣より発展性を持たせることに成功しています。
雪輪の一部分を拡大してみました。型で伏せたところが防染されて絣が浮き上がらない仕組みで、ぼやっと絣足を引いたり、絣合わせのズレが生じる他の絣織物とは異なり、くっきりとコントラストの高い柄に仕上がっていることがわかります。
絣の形がやたらキレイなのに違和感を覚えますが見事なものです。

地色が白の雪輪、絣足を引かないので、単純な構成でもコントラストが高い。

型染めであることでロットに縛られることもなく、流通側にとってもたくさんの在庫を抱えなくて済みます。織物はMOQ(最低必要発注ロット)の問題があり、呉服市場が萎むにつれて製造が困難になっていて、このように小ロットで制作が可能な商品はとても助かります。

多色使いの絣もポイント。

今回紹介の絣柄のお召は、人の手仕事の味を楽しむことはできませんが、低コストで絣柄が楽しめる画期的なアイデア商品です。
そして生地自体は紛れもなくサラッと風合いの良いお召織物です。安物、本塩沢に似せた廉価品という位置付けではなく、型染めで絣模様を実現したユニークなお召と捉えていただければと思います。

極め付けは亀甲絣、びしっとキレイな亀甲が並ぶ。

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