タップして閉じる

- ブログ -
問屋の仕事場から

2021.05.09
プロでも見間違う宮古上布と能登上布の見分け方

宮古上布は数ある伝統工芸織物の中でもトップクラスの高額品です。高級自動車が買えてしまうほどの価格帯の宮古上布、新品で手に入れることができる人は数えるほどしかいません。

そもそも年間に10反そこそこ(着尺)しか作られませんから、数の上では中古品、リユーズ市場の方が活気立っているといえるでしょう。

宮古上布で検索すると様々な商品がヒットする

麻織物は絹織物と異なり朽ちにくく耐久性があります、さらに深い藍色は黄ばみや汚れなどが目立ちにくくリセール価格も高くなる傾向にあります。タンスの中から出てきた故人の着物が宮古上布であった場合は浮足だってしまうかもしれません。

宮古上布に貼りつけられている証紙類。

証紙などが残されていれば簡単に識別ができると思いますが、仕立て済みなどで証紙が残っていないケースも多いことでしょう。今回はそもそも宮古上布とは何ぞやの定義から、よく間違えるポイントである古い能登上布との違いを解説します。

 

宮古上布とは

まず「宮古上布」とは何ぞやということですが、沖縄県宮古島で作られる麻織物で、手績みの苧麻糸を100%使っていることが特徴です。

同じ高級麻織物である「越後上布」は手績み苧麻糸の混率によって価格が大きく変化します。

一口に越後上布といっても様々なランクがある。

越後上布は重要無形文化財技法で2年かがりでつくられた商品と、機械紡績の苧麻糸を織機で織った商品も同じ「越後上布」と呼称されます。

一方、宮古上布は手績み糸を100%使ったものでないと、宮古上布を名乗ることは許されません。スペックダウンしたものは宮古苧麻織、宮古麻織など、別の呼称で呼ばれています。

参考:手績み糸の風合いが伝わる宮古苧麻織

反物に伝統証紙がなくとも、単にその条件に当てはまらないだけで、れっきとした正真正銘の宮古上布です。「本場」結城紬、や「古代」越後上布など、ややこしい冠がつかない宮古上布は消費者にとって大変わかりやすい稀有な織物ブランドであるといえます。

宮古上布の帯。糸を績むイメージの証紙は藍染以外の植物染料で染められた商品に貼られる。

宮古上布は地域団体商標として登録されており、勝手にまがい物や類似品を作成してその呼称を使用することはできません。宮古織物事業協同組合が正規に流通させる商品、もしくは同組合員が作成した商品でないと、宮古上布とは言えないのです。

宮古上布のちいきだん

地域団体商標として商標登録されている宮古上布、特許庁のページより。

一般的な宮古上布のイメージとして琉球藍で染められた濃い紺色に、大島紬のような細かな絣の商品をイメージされるかと思います。経緯絣の宮古上布の多くはそのイメージですが、他にも縞や無地の商品も作成されています。

縞の宮古上布、伝統的工芸品の条件(絣織物であること)外だが正真正銘の宮古上布である。

重要無形文化財の指定技法、伝統的工芸品の条件についても細かい要件がありますが、宮古上布は「宮古島で作られる手績み苧麻糸を経緯ともに100%使用した平織物」と定義することができます。

 

宮古上布と間違えやすい能登上布

宮古上布とよく見間違えるものに古い能登上布があります。

ヤフオクで「宮古上布」を検索すると数十件のアイテムがヒットします。どれもパッと見は宮古上布に見えますが、実はこの中に能登上布がまぎれています。

ヤフオクで宮古上布を検索するとたくさんの中古品がヒットする。

長年織物を扱い続けてきた専門家が柄を見れば、昔どこかで見たことのある能登上布と判別できるのですが、素人目にはそのような芸当はできません。

どれだけ判別が難しいかわかる一例をご紹介いたしましょう。

こちらの商品、廣田紬に湯通し依頼で持ち込まれたもので、誰もがパッと見て宮古上布だと思うことでしょう。琉球藍で染められた紺色の生地に、大島紬のような精緻な絣模様、手織りの味、砧うちされた生地風、宮古上布の特徴をはっきりと備えています。

しかしこの商品は宮古上布ではなく「能登上布」なのです。

能登上布は石川県で作られる麻織物です。全盛期は100軒を超える機屋があり、30万反とも呼ばれる生産数を誇りましたが、他産地と同じくして衰退、産業として維持できなくなり組合は解散、現在は一軒のみを残すだけになっています。

現在は山崎さんの工房でのみ作られている能登上布。

麻織物と言えば能登上布という時代があったくらい、全盛期は様々な商品が作られていました。スケールメリット、競争原理もあり、現在よりもリーズナブルで芸が細かい商品群を形成、現代風に言えばコスパに大変優れた麻織物だったのです。

最高級品である宮古上布に対抗しようとしたか定かではありませんが、とても似た商品も作られていました。糸は紡績糸、化学染料で染め、高速で織ることのできるバッタン式の機で織ることで宮古上布の10分の1のコストで製造することができました。生地表面がロウ引きされて光沢を放つ生地を見ていると宮古上布と見間違えてしまいます。

宮古上布風の能登上布組織の拡大、砧うちにより潰れた扁平な単糸がみてとれる。

プロでも見間違えてしまう過去に作られていた能登上布、見分けるポイントは経糸が単糸であることです。

宮古上布の手績みの糸は苧麻の繊維を裂いて繋ぎ合わせています。機の張力に耐えることができず切れてしまうため、撚り合わせて双糸にして強度を確保していますが、能登上布の機械紡績糸は引っ張り強度があるので一本でも問題ないのです。

藍の宮古上布の組織を拡大してみました。

苧麻の繊維を裂き、繋ぎ合わせた糸のため太さがバラバラで能登上布のように均質ではありません。この組織は絣糸が経緯2本づつ、ガッチリとした十字絣(大島紬でいう一元絣)を作り出しています。経糸が双糸がどうかわかりにくいのですが、反物の端を解いて分解してみることで判別が可能です。

パッと見は判別がつかない宮古上布と「宮古上布風」の能登上布、組織を分解して経糸をたどってみることで識別が可能です。

憧れの宮古上布ですが、リユース市場においては能登上布と混同されているケースがあるので気をつけてください。もっとも「宮古上布風」の能登上布は今ではなかなか作ることが叶わない素晴らしい織物です。どちらも上等な麻布、上布であることは間違いありません。宮古上布とも見間違える素晴らしい上布が、大変リーズナブルな価格で手に入る環境は大変恵まれていると言えるでしょう。

以上、宮古上布の見分け方のポイントについて解説しました。

廣田紬にご興味をお持ちくださった方はこちら
詳しくみる