非常に細かい格子柄で、少し離れてみると無地に見えます。 白黒…
- ブログ -
問屋の仕事場から
- 2018.10.27
- 絽刺し ~趣味が繋いだ伝統工芸~
東北の民衆の倹約魂が生み出した刺し子、シンプルながらも斬新なデザインで親しまれています。一方で「絽刺し」と呼ばれる公家や武家の子女の道楽として生み出された刺繍技術があります。
絽刺しは織りあがった生地に糸を刺し渡していく刺繍の一種に分類されますが、日本刺繍との最大の違いは生地目に沿って直線で針を刺していくことです。斜めに糸が渡りませんので曲線的なデザインを作ろうとすると、何度も小さな距離を繰り返し直線を繋げる手間が必要です。
そしてその名の通り捩り織りの一種である絽を生地とするのが特徴です。和装分野では帯にポイントとして施されていますし、小物とも相性はよく、利久バッグや財布にも使われています。絽刺しをした生地は目的の生地と縫い合わせることで、様々な商品に展開することができます。
直線的に糸を通していく点では刺し子と似ていますが、成り立ちが上流階級の文化だけあってそこには煌びやかさ加わっています。刺し子は白の綿糸を使いますが、絽刺しは太めの絹糸を使います。シンプルなモノトーンの刺し子に比べて、豊かな彩りを演出する絽刺しは表現の幅が大きく異なります。
趣味の世界の伝統工芸
その発祥が公家の道楽である絽刺しは、近代以降は上流階級の婦人の趣味として各地に広まりました。絽刺しは間違いなく伝統工芸ではありますが、各地で絽刺教室が催されていますし、通信教育などでも気軽な趣味として誰でも始めることができます。
手芸本もたくさん発行されていて、お家でできる個人的な趣味として人気を集めています。
紬をはじめとする素朴な被服は普段の生活に使うものとして自給のためつくられていました。しかし地域内の染織文化がいつしか副業へ、産業へと転換され、生活の手段、生業となってしまいました。一旦そうなってしまうと経済的合理性がなければ続けることは難しくなってしまいます。
趣味として広がりをみせた絽刺しは特定の産地を持たず、産業として存在はしていません。伝統工芸が生き残るには産業としてだけではなく、人々に寄り添った趣味の世界であることも必要であると感じさせられます。伝統手芸とも称される絽刺しは、後継者不足に嘆く他の産地の伝統継承の方法の模範になるのかもしれません。
今回絽刺しをテーマに取り上げたのは社屋を利用した会場で絽刺しの展示会を開催したことがきっかけです。石川朝子先生が主宰される静華会一同の作品展でしたが、関心を持った人が予想以上にたくさん来場されて大変な盛況ぶりでした。
※本ブログで取り上げたのは商品紹介としてではなく、廣田紬でも商品としての取り扱いはございません。