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問屋の仕事場から

2018.10.01
刺子の帯 ~倹約が生み出した装飾美~

布に糸を刺し縫い込んでいく刺子、本来は布の補強や保温性向上のための実用的なものでした。現在は和装分野においてその様式美を利用した帯が作られています。

刺子とは

分類としては刺繍の一種で、既にある布に糸を刺し込むことで模様を表現したものです。刺繍がはじめから装飾を目的としていたのに対し、刺子は布を補強するための縫い目が模様になっています。刺繍が細かく繊細なのに対し、刺子が民芸調なのはその成り立ちからして違うからなのです。

ステッチアートともいえる刺子ですが津軽コギン、南部菱刺し、秋田の長手手ぬぐい、山形の花雑巾、庄内、会津、越前・・・ 東北を中心とする北国で様々な発展を遂げました。

寒冷地においては木綿の栽培が適さず、交易によって入手する布はとても貴重なものでした。人々は布を重ね合わせ、痛んだ布の補強をしていきます。布の織目をひとつひとつ埋め尽くすかのような糸目は布にたっぷりとした量感を与え、頼りがいのある丈夫な布になりました。そして一筋に刺し続ける単調な仕事は少しでも喜びを見出すためにいつしか遊心が加わり、次第に美しい幾何学模様になっていったのです。

米沢の花雑巾、野良仕事をしていた武士は小作農との違いをこだわりで表した。

身近な例では雑巾をイメージしてみてください。補強のために糸を重ねて縫い付けていきますが、ミシンで縫う際に糸の色を変えて様々な曲線を描いてみたりすることはないでしょうか。そのような遊びが伝統工芸として現代まで受け継がれたのが刺し子なのです。

機能性と装飾性を併せ持つ刺子は江戸から明治大正にかけて刺子は全盛期を迎えます。染めや絣、絞りなどの地模様を更に浮かび上らせる効果もあり、様々な布に施されるようになりました。

江戸時代の火事袢纏、刺子で補強した火消し用防火服である。水に濡らして使われた。

丈夫な繊維製品が安価で大量に供給されるようになると、手間のかかる刺子は急速に廃れていきます。大量消費の世の中では補強材という存在意義を失ってしまいましたが、現在ではその装飾美が見直され手芸などの趣味の世界や手仕事の良さを求める愛好家を魅了し続けています。

 

和装でも帯を中心としてその装飾美が生かされています。冒頭の写真は南部菱刺しと呼ばれる九寸帯です。お隣の津軽コギンが正方形の菱なのに対し、横方向に細長くなっているのが特徴です。

横長の菱型が特徴の南部菱刺し。

生地には麻が使われており、綿糸で一つ一つ刺し込んで模様を作っていきます。寒冷地でも麻の栽培は可能なことから、北国では麻布が一般的な織物でした。通常麻生地は夏帯に使われますが、わざわざ麻を使っていることに製作者のこだわりを感じます。

腹の部分の柄

裏側、末端部分がうまく処理がしてあり、遊び糸が出ないようになっている。

独特の装飾美を持つ刺子ですが一つ一つ人が刺していくため、大変な手間がかかります。コストは面積に比例し、とても普段使いのものとしては現実的でない価格になってしまいます。今回紹介の帯は腹と太鼓のポイントで刺子が施されていますが、仮に六通にした場合の手間はポイントの比ではありません。また、使う糸の量も面積に応じて増えますので、重量増となってはますます普段使いから遠のいてしまいます。

 

そこで織組織を工夫することで刺子のように見える「刺子調」の織物も作られています。伝統的なデザインをそのまま生かした紋織物は比較的低コストでかつ、軽量に仕上げることができます。

紋織りをすることで軽量に仕上げることができる刺子調の帯。

津軽こぎんの伝統柄を踏襲した八寸帯です。パッと見は通常の刺子と全く同じように見えますが、生地裏を見ると糸を刺した後に出てくる走り糸がなく、織で模様を構成していることがわかります。また、刺子が施される布は本来は綿や麻で作られていたものですが、この商品は絹が用いられていて光沢感があります。

表(右)と裏(左)、白黒が逆になっている。

まさに現代的なアイデア商品です。紋紙でコントロール、自動織機で織り上げられる繰り返し柄の織物のため六通柄でもコストや重量増の問題なく作ることができます。

男物の角帯の展開も

人の手仕事の味求めたい人は伝統的な刺子の商品を、伝統柄の魅力を気軽に楽しみたいという方は織の刺子柄をと選択することができます。着道楽になってくるといつかはオリジナルのものが欲しくなるものですから、エントリーモデルとして廉価品が展開されているのは好ましいことです。

 

北国の人々は様々なハギレを繋ぎ合わせ、一刺し一刺し糸をめぐらせることで貴重な布を甦らせてきました。その成り立ちからして繊細な刺繍とは一味違う刺子、デザイン、装飾美に光が当てられがちですが、地道な手仕事の味は人に温もりを感じさせ惹きつける不思議な魅力を放っています。

 

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