遠くインドで発祥した更紗、草花や鳥獣、幾何学文様をモチーフに…
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問屋の仕事場から
- 2019.05.27
- 軽やかな結城紬の織帯
前回結城紬の染帯の紹介をしましたが、織柄のシンプルな帯も作られています。
染帯は真っ白の白生地から加工していくため、デザインの自由度が高く、どんな柄でも一点から作ることができます。一方、織り帯の場合は先に糸を染める必要がありますのでどうしてもコストの制約からデザインに制限が生じてしまいます。しかし結城紬の本領を発揮するのはやはり先染め、シンプルながらも粋なデザインで他とは一線を隔す織帯に仕上がっています。
冒頭の写真の商品は結城紬の九寸帯、
結城紬の着尺地と比べて違うところは、ほんの少しだけ厚みがあるところです。九寸帯は帯芯を入れて仕立てることから、せっかくの結城紬の風合いが活かしきれません。しかしこの商品はわざわざ地機で織られており、織り元のプライドが感じられます。
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堂々たる諸紬の風合い、帯にするにはもったいないくらいである。
カジュアルな帯として使いまわすことを考えると、生地に厚みは耐久性につながるので好ましいことです。着尺もこれくらいの生地厚の商品があっても良いと思いますが、消費者ニーズとしてはフワッとした軽さを求める傾向にあり、いまでは作られることが少なくなりました。
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仕立て上がりは帯芯や裏地の分が重量増になりますが、とにかく軽い!
そしてその特徴はなんといっても軽さでしょう。着尺より巾が狭く、三分の一程度の要尺ですので当然ですが200g台の重量になっています。同じような諸紬の帯と比較してやはり2割ほど軽く仕上がっています。
生地の状態でのフワッとした質感は帯に仕立ててしまうと、失われてしまいますが、地機で織ったことによる表面の味わいは健在です。まさに結城紬のよさを知っている人にこそ使ってもらいたい、玄人好みの商品と言えるでしょう。
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長さの誤表記(現物は4m程)はご愛嬌、着尺で14m(白生地)あるものでもすべて12m表記に統一されている。
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経絣をつかったデザインの九寸帯。
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縮の残糸で織ったもの。裂織のようなグラデーションが美しい。
そして結城紬の八寸帯も作られています。地厚の八寸帯は緯糸を束ねて太く引きそろえたもの、無撚糸の手紬糸ならではのフワッと感は健在で、手にとると驚く軽さです。この手の真綿の帯はほっこりとした外観ですが、実際に手に取ってみてずっしりと驚ろかされることもあります。しかし結城紬の場合は地厚の八寸帯でも軽量、コンパクト、さらに結城紬独自のフワッと感を併せ持ちます。
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緯絣糸をつかった八寸帯。
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クズシ模様。
結城紬の着物はそれとなく周りから「それは結城ですか」「やっぱり結城ですね」と言われるくらいの風格を備えています。着ている本人もその風合いからやはり結城紬はほかの紬とは違うなあという実感がわくものです。しかしそれが帯となると少し話は別で、よほど通の人かマニアの世界かと思われるかもしれません。
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二筋格子(奥)、リバーシブル(手前)の八寸帯
しかしさすがそこは自他ともに認める最高級織物、数百年にわたって織物業界をリードしてきた産地のデザイン力が生きています。何しろ糸代が普通の織物の数十倍ですから、奇をてらったデザインの無駄弾は打てません。シンプルながらも他の織帯には感じられないハッとさせられる逸品ばかりです。
近年はご法度とされていた浮き織りに挑戦するなど新しい取り組みも模索されています。そんな結城紬の帯、目にする機会があれば一度手に取ってみてはいかがでしょうか。そして手に触れることでその素材感が伝わり、更にあなたを魅了することでしょう。