天蚕糸を使った織物といえば繊維のダイアモンドと呼ばれるほどの…
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問屋の仕事場から
- 2019.06.01
- 民藝品ではない誇り貴き首里花織の着物
琉球王府の中心地であった首里では王族、士族のための織物が織られ今日まで伝承されてきました。宮平一夫氏が織りなすこだわりの首里花織は他の浮き織とは一線を画す美を放ちます。
沖縄の織物の特徴といえば糸を浮かせて模様を演出した花織がありますが、その技法は様々な織物に応用されて特別なものではなくなってしまいました。もっとも技法自体が複雑で特殊なものではなく、自動織機でも織り上げることが可能です。西陣や十日町で大量に作られた廉価品をはじめ、南風原地区で作られる花織に特化した琉球絣(南風原花織)など沢山の浮き織を使った織物が巷にはあふれています。
花織は織り進めるたびに綜絖を操作します、特に着尺は帯と違って最後まで柄が続くため織り終わるまで気が抜けません。手間を考えたらプログラムによる自動化で寸分違わずに織ってくれる自動機に任せた方が正解です。しかしそこには人の手仕事の味が感じられない工業製品としての宿命がありますし、かといって手織りの味が濃すぎれば民芸品となり高級感を欠いてしまいます。手織りの味と人を感動させる美しさ、それを両立した織物は案外少ないものです。
今回紹介の宮平一夫さんが織りなす首里花織はまさにそれを高次元で両立した織物といえるでしょう。
シンプルな花織があしらわれた濃いグレーの織物。人間国宝に認定された宮平初子さんの長男の製作物とレッテルを張らなければ、遠目には何の変哲もない織物に見えることでしょう。しかし見れば見るほど、美しさと迫力が備わっていることに気づかされます。
よく見ると経が縞立って見えますが、ごく僅かに経糸の色が違う縞割がされています。そして緯糸には更に濃い色を使うことで生地に織りあげた時の高級感のある色使いつながっています。
花織があしらわれている浮き組織の箇所を拡大してみます。
遠目には無地に見える組織、同色系統の色糸が使われているので織り手の目を酷使することが想像できます。一反織り上げるまで丁寧に間違いなく織り続けるには相当な根気が必要です。
人の感性を刺激して良いものだ、美しいと思わせる迫力は数値化や文章ではなかなか表現できないものです。しかしそれを手に取ってみると機械織には決して作ることのできない手仕事の味がひしひしと伝わります。
手織物の醍醐味が詰まった宮平一夫さんの首里花織、王侯貴族の織物として受け継がれてきた誇り貴き伝統はしっかりと守られています。