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問屋の仕事場から

2021.11.27
ユニクロが本気で結城紬を作ればいくらになるのか、市場は広がる?

圧倒的な競争力で世界No1アパレルメーカーになったユニクロ(ファーストリテイリング)、もしユニクロが結城紬を作ればいくらで提供できるか試算してみました。

いまや冬の定番素材になったフリース素材、開発された当初は特殊な高額素材で自然素材にはない速乾性、メンテナンス性の良さを売りにしていました。ポーラテックの商標で80年代から徐々に一部のアウトドアメーカーによって採用され、コストの点では普段着として普及する代物ではありませんでした。

アウトドアメーカーのフリース、コストではなく極地での機能性やメンテナンス性を考えて作られている。

そのフリースを一気に身近にしたユニクロ、コストダウンの理由は大量調達、数百万着という大量生産によるものです。近年では化学繊維だけではなく、カシミヤや高級ダウンといった素材も身近な素材として一般の人の普段着として提供を始めています。

ユニクロのダウン製品、高性能ダウンが気軽に購入可能になった。

価格が下がり手の届くようになると市場が出来てくるといいますが、ユニクロはそれを実現化して高級素材をグッと身近なものにしてくれました。

そのユニクロが結城紬(無地)を作成したら、価格はどれほどのものになるのでしょうか。そしてその価値、価格は受け入れられて世の中に結城紬は広まるのでしょうか。

アジア太平洋地域の人件費比較、ダッカは横浜の25分の1  『アジア・オセアニア各国の賃金比較 (2019年5月8日)』

製造工程を省力化(機械化)をしてしまえば、条件が合いませんので、今回は生産の海外移管による人件費圧縮、大量生産によるスケールメリット、商流をSPA化、する事によるコストダウンを前提にザックリと検証してみます。

 

・人件費をアジア地域最低クラス(月1万円程度)で換算

・100万着オーダーの大量生産、製造移管にかかるイニシャルコストや教育コストを圧縮する

・商品原価率40%で計算(自社倉庫渡し+輸送費諸々)

 

まずは原材料、結城紬に使われるのは無撚糸の手紬糸です。繭を潰した真綿から一本一本糸をズリ出していく工程で、着物一反分(約5平方m:600gほど)をとるのに2ヶ月かかります。これを海外調達に切り替えれば、人件費が一気に圧縮されて様々なコストを含めても25,000円程度まで原料をコストダウンすることができます。

結城紬の手紬糸、素材が命、まさに人件費の塊。

そして複数のカラーバリエーション展開する糸の染糸、整経などの段取り、高く見積もっても3000円程度で済むでしょう。

製織は高機で織り上げたとして1ヶ月程度、整理工程など含めても10,000円程度でしょうか。縫製に2000円、かなり乱暴ですが、単純計算して原価が4万円。

すると店頭では10万円で販売することが可能です。セールなどがあれば一桁万円で結城紬を購入できるということもあり得ます。

様々な人の趣向に合わせるため、たくさんのカラバリを揃えないといけない。

さて、この10万円の普段着、一般の人でも買えなくはない金額ですが、大ヒット商品となるとは到底思えません。着物の形状ではない状態でも、更に仮に1万円で作ることができたとしても、この上質過ぎる絹布は、化学繊維の扱いに慣れたマス層には全く受け入れられないでしょう。

価値を理解しない人にとってはただの粗野な布、ポリエステルウエアの方が価値がある。

布を愛でる特別な層にだけ届く、悠久のストーリーで織られた結城紬、「見えざる手」によって需給が調整され、現在の価格に落ち着いているのです。闇雲にコストダウンをするとブランド価値が大きく毀損、回復不可能な傷を残すだけでしょう。

少量生産故に価格が安定、写真は貴重な結城縮。

以上、無理やりユニクロ方式でコストダウン試算をしてみましたが、結城紬はとても価格弾力性の低いアイテムです。希少であること、高価であることが価値にもつながります。そしてブランディング次第でまだまだ大化けする潜在性を秘めています。

これ以上高価になっては困りますが、他産地が行ってきた無益なコストダウン(海外移転、機械化)を考えずに伝統を守り続けてほしいものです。

 

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