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問屋の仕事場から

2017.11.16
トップクラスの生産量を誇る琉球絣

2反の琉球紬

沖縄には様々な織物がありますが、その最大の生産地が南風原町で作られる琉球絣です。その生産数は3000反以上(帯含む)になり、伝統的工芸品に指定されている織物の中ではトップクラスの量です。流通量が多いということはそれだけ消費者に支持されているということで、今回はその琉球絣の魅力を紐解いていきます。

琉球藍が使われた琉球絣、典型的な柄が飛ぶ。

琉球絣の特徴、魅力はなんといってもその柄の多彩さです。500とも600ともいわれる独自の紋様は琉球の自然や生活に関わるものを図案化したものです。伝統の図案は御絵図帳(みえずちょう)として残っており、それらを組み合わせて魅力的な柄に仕上げています。

沖縄の織物によく使われるツバメ(鳥)の柄。

燕尾の部分の拡大、緯絣がつかわれている。

絣の名前はすべてトウイグワー(2羽の小鳥)、ジンダマー(銭玉)といった具合に方言で呼ばれ、それらを組み合わせることで無限ともいえる柄を作り出しています。また植物染料だけでなく、化学染料も使うことでバリエーション豊かな色使いを可能にしています。

絣の本

琉球の絣五百選、廣田紬の染織資料として蔵書。

 

そして平成に入ってからは沖縄の他の産地に見られるような、浮き織組織(花織)も織られるようになりました。裏に糸が通らない両面浮花織が主流で、それらは両面使いをすることが可能です。

浮き織の反物生地

見る角度によって反射光が異なる煌びやかな浮花織。

これらの浮織は「南風原花織」として今年(平成29年1月)に新たに伝統的工芸品として認められました。古老からの聞き取り調査や、古裂を分析したり、古い新聞の中にあった記事、写真などを証拠に100年以上の伝統があるものとして認められたのです。

南風原の証紙

平成29年から伝産リストの仲間入りをした南風原花織、指定要件で作られたものには伝統マークが付与される。

 

琉球絣は使用する糸も様々な種類が使われています。元々は泥藍で染めた木綿絣が原点でしたが、現在では絹糸が主流となり、生糸、玉糸、真綿のつむぎ糸、麻糸から毛糸といった具合に様々な糸が使われています。特に特殊な撚りをかけた壁糸を使うカベ上布は夏物の定番商品となりました。

藍色の琉球絣

カベ上布呼ばれる透け感を演出した夏向けの絹織物。

上記のとおり琉球絣は多彩な柄、色に加え、様々な織り方、糸質を組み合わせることで魅力を放ってきました。バリエーション豊かな商品は必ず消費者が気に入るモノが見つかるはずです。しかし、パッと見て琉球絣だと思わせる強烈な個性がないのも特徴です。もはや琉球絣とはなにか、どのようなものが伝統であるのかはっきりしないのも事実なのです。

それは沖縄に散らばっていた様々な柄や技法が、南風原町に集まって琉球絣というカテゴリーを作り上げたからです。人々の努力により確立された琉球絣ブランドですが、本来、南風原では綿織物が中心で、衣類の生産は盛んではありませんでした。他の沖縄の産地からは本来はあれはウチの技術であるとの恨み節が聞こえてきたりもします。

そして恨み節(?)の別の要因の一つ、消費者にとっての最大の魅力は他の追随を許さない価格競争力にあります。

 

分業による圧倒的な価格競争力

琉球絣はそれとわかる強烈な個性、独自性というものが欠けていますが、それを補う最大の魅力があります。それは圧倒的な価格競争力です。完全な分業体制がとられ、図案、絣のくくり、染色、織り、仕上げをそれぞれの専門家が効率よくモノづくりをしているのです。琉球絣のように生産規模が大きいと分業効果が大きく、コストダウン効果が大きくなります。そして和装分野だけにとどまらず、ネクタイや袋物、洋装(かりゆしウエアなど)の分野にも積極的に進出しています。

琉球絣は分業制、作業者は工程ごとに専念することができる。

コスト競争力の秘密は流通の手法にもあります。他の沖縄の織物は組合が販売を主導するケースがあるのですが、琉球絣は各機屋が独自に卸売をすることが可能で、そこでも機屋間での価格競争が行われています。組合は反物の検査や原材料調達などの最低限の機能のみ提供することで、余計な流通コストを省くことができるのです。

3000反以上の生産数は数十軒もの機屋によって作られていますが、これらを束ねるのが琉球絣事業協同組合です。

産地の規模に恥じない立派な建物がこちら。

 

藍色の絣会館

伝統の琉球藍を思わせる強烈なイメージカラー、周囲には機屋が点在する。

組合事務所 兼 作業場である琉球かすり会館は観光客向けにも一般開放されています。工程別に部屋が設けられており、見学者は自由に歩いて見学することができます。地元の学校の校外学習など教育の場としても使われており、地場産業として次の担い手を確保していこうという強い意志が感じられます。

機がたくさんある工房の様子 

織工程の研修室、間近で機織りを見ることができる。

組合の職員の方に詳しい解説をきくこともでき、ひとつひとつ丁寧に教えてくれます。一般消費者に向けた反物の販売や、ノベルティグッズの取り扱い、コースターなどの織体験などもあり、琉球絣について造詣を深めることができます。

機織りをする人

絣の織物は織り進める途中で絣柄を一つ一つ合わせていくため織子さんが神経を使います。しかし琉球絣の絣合わせは極力手間を省けるように設計されています。いちいち絣合わせをしていては非効率であるとの製品思考で、リズミカルに杼を飛ばしてどんどん織り上げられていきます。

経絣のみの柄、織り手は絣あわせを考えずにひたすらに緯糸を打ち込んで行けば良い。

琉球の絣は「手結い」とも呼ばれ織り手の加減次第で模様がそれなりにずれます。少しくらいの絣ずれはご愛嬌、手織の証です。達人になると3日で一反を織り上げるそうで、圧倒的なスピードは低コストにつながっています。正絹で手織の絣織物というと、どうしても高価なイメージがありますが、琉球絣その先入観をくつがえしてしまいます。

道路標識

かすりの道、絣紋様が町の様々なところに埋め込まれ、沿道には植物染料の元になる草木が植えられている。

南風原町は「かすりの里」として町をあげて琉球絣を推進してきました。組合の周辺に点在する織元からはカタンカタンと機の音が聞こえ、地場産業として大きく成熟しているのがわかります。

 

琉球の文化や自然から生まれた伝統柄を散りばめた琉球絣、分業による効率的な生産体制や町をあげての取り組みで全国の伝統的工程織物の中でもトップクラスの生産量を誇るようになりました。これからも沖縄を代表する織物として人々を魅了してゆくことでしょう。

 

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