タップして閉じる

- ブログ -
問屋の仕事場から

2021.03.15
黒染屋さんが染めた黒の結城紬

結城紬は糸の状態から染める「先染め」で織られるのが基本です。しかし場合によっては白生地を後染めをせざるを得ないことがあります。

以前紹介した結城紬の白生地、友禅染などに使われる最高級生地です。通常の縮緬生地の10倍以上もの価格がしますので、これを染めるとなると、よほどの胆力のある小売店、メーカーです。染め上がった商品は大きな在庫リスクになりますので、最近は本当に注文が少なくなってしまいました。

結城紬の白生地、カシャゲの青いラインは18ヨミの最高級品の証。

今回オーダーを受けたのは無地の黒染めです。従来の先染めの黒い生地はありそうなのですが、用途が限られるので墨黒以外は在庫はしていません。喪服用途で豊富に在庫があったのは過去の話です。

様々な先染めの墨黒生地、結城紬は反物の耳が白い。

さらに紋を入れるとなると、刺繍紋では問題がありませんが、染め抜き紋を入れる場合は話が別です。先染めで染まった箇所を抜染して紋を入れるのは困難で、すっきりとした紋を入れるとなると白生地に紋の箇所を伏せ糊(マスキング)をしてから染める以外ありません。

染め上がった生地がこちら。「たき染」と呼ばれる染料に生地を浸して染められる技法で作られています。

先染めの生地と見間違うほどにムラなく染まっています。通常は織りムラ(緯糸の打ち込みの強弱違いによる織密度の差)が浮いてくるのですが黒の場合、コントラストが潰れてしまい、ムラが目立ちにくいのです。

京都は黒染めを専門にしている染め屋さんがたくさん(だいぶん数を減らしましたが)あり、卓越した技術で上品に染め上げてくれます。黒といっても様々な黒があり、ここでも染め屋さんの技量が問われます。

結城紬は普通の縮緬生地と異なり、鈍い光を放つ

染める元の生地の品質も大切です。節が多かったり、打ち込みにムラが有ったりすれば染め上がった際にエラーとして跳ね返ってきます。

生地の品質、染め屋さんの技量が合わさって初めて理想的な染め生地が出来上がるのです。

染め上がってドレープした状態。

後染めされた生地は通常の生地に比べて少し重みがあります。その重みに由来しているのでしょうか、風合いは結城紬独特のふわっとしたものと、縮緬生地の中間くらいの風合いになります。

この後に任意の紋を入れて最高級の無地着物に仕立て上がります。一度その風格、着姿を見てみたいものです。

 

短納期で対応可能な後染め

先染め織物である結城紬、それなりの流通量が有った昔は無地の結城紬がたくさんありました。生産数が激減した今、無地の結城紬の生産数も減っています。なんと先月(2月)の地機無地の生産数はわずか1反という有様です。

地機の商品は右端に新しい畳の色の証紙が貼られる。

市場にも在庫があるわけがなく、任意の色を求めるとなると一から別誂するしかありません。はっきりとしない納期で数ヶ月まつとなると、気分が変わってしまうかもしれませんし、着ることのできるシーズンを一年逃してしまうかもしれません。

※参考:廣田紬では豊富な見本帳を元に結城紬の別誂が1反から可能です。

しかし後染めであればすぐに任意の色に染め上がりますので、機会を逸してしまうこともないでしょう。

今回は浸染による黒染めでしたが、同様の京都の熟練された職人によるシケ引きなどの加工も可能です。

シケ引きされた結城紬、裏には染料が通りきっていない。

先染めの結城紬(奥)と後染め(手前)の比較、織りムラがどうしても浮いてくる。

結城紬独自のふわっとした風合いは先染めでしかなし得ないものです。しかし機屋、問屋、小売り屋、全てが在庫リスクを追うことができなくなった今、白生地から任意の色に染め上げるといった流れが増えるかもしれません。

複雑な想いですが、白生地を染めるという選択肢もあるということを今回はご紹介させていただきました。

 

廣田紬にご興味をお持ちくださった方はこちら
詳しくみる