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問屋の仕事場から

2020.08.28
奄美の泥染めで洋服を染めてみる

奄美大島の大自然がもたらす車輪梅の泥染め、染色技法として大変魅力的ですが、大島紬以外の布にも施すことができます。

まず泥染めとは何ぞやというところから解説します。

泥染の大島紬というと、この呼称からは泥だけで染められているかと想像しますがベースは車輪梅(テーチギ)の草木染めです。

車輪梅の幹。林業の副産物出会ったが近年はわざわざ森に入って伐採しなければいけない。

細かく裁断された車輪梅のチップ。500キロ以上の重量にもなる。

赤褐色の煮汁。

染め上げた絹糸、幾度も繰り返し染めることで色が濃くなっていく。

車輪梅の煮汁で染めると糸は茶褐色に染まります。このままでも魅力的な草木染めの糸なのですが、泥につけてその中に含まれる鉄分で媒染を行います。そこでは微細な泥の粒子が絹糸に絡みつき、独特の深みのある黒色「奄美ブラック」生まれるのです。

泥染大島紬、ただならぬ黒が魅力の一つ。

泥染大島の組織の拡大、絣足の茶色が美しい。

 

世界に広がる泥染の魅力

大島紬の真髄とも言える泥染めですが、白大島や色大島の登場、生産減で年間で2000反ほどになってしまいました。最盛期は10万反以上の泥染め大島が生産されていた頃と比べて仕事量は激減しています。

 

多岐にわたる大島紬の工程は、一人で全てをまかなうことはできず、それぞれの専門業者が行います。生産数の減少とともに染め加工を行う業者も減り続け、現在では片手で数えられるほどの軒数しか残っていません。

実は2000反程度であれば1軒で十分捌ける仕事量なのですが、まだ数軒の業者が稼働しているのには驚かされます。仮に1軒だけになってしまえば、黄八丈のように染め加工の価格競争力が働かず、大島紬は更に高価なものとなることでしょう。

全盛期の頃の泥染めの様子、現在の職人数はこのワンカットの人数より少ない。

絶望的とも言える大島紬の生産状況の中、染め加工業者が健在なのは紬加工以外のビジネスに成功しているからです。

唯一無二のすばららしき泥染は、大島紬に使われる絹糸だけではなく、綿のTシャツや皮革製品に施すことができます。和装分野だけではなく洋装分野へ、アパレル分野だけではなく小物やアクセサリーへも展開、さらにその市場は国内だけではなく世界へ広がっているのです。

「泥染 服」のキーワード検索では様々な商品がヒットする

すでにアパレルの仕事量のほうが従来の大島紬より多いといった染め加工事業者もあり、凋落する和装産業に頼らない事業継続をすることが可能になりつつあります。泥染め体験などの観光パッケージとしても展開していて、奄美文化の素晴らしさ伝えるのに一役買っています。

「着物」とカテゴリーとらわれることのない事業展開、どのような形であれ、素晴らしき伝統技法の一つが守り伝え続けられていくのは素晴らしいことだと思います。

 

泥染で洋服を染めてみる

実際に既製品のTシャツやタンクトップといった既製品の服を染めてみました。

奄美のいくつかの泥染め工房では泥染め体験を行っています。今回染め加工をしたのは本場奄美大島紬泥染公園、山と川に囲まれた自然豊かな場所にある工房です。

本場奄美大島紬泥染公園、山の豊かなミネラルが泥のプールに流れ込む。

大島紬は糸の状態で染めて織り上げる先染め織物ですが、すでに織りあがった既製品の状態でも泥染めを施すことは可能です。市販のTシャツやポロシャツ、ズボンなどお好きな繊維製品を染めることができます。後染めはどうしても多少染めムラが出てしまいますが、それも味の一つです。また大島紬の素材は絹100%ですが、他の草木染めと同じく綿などの天然繊維であれば泥染めを施すことができます。

天日干しされる加工済みの服、素材によって染め上がり具合が違うのも醍醐味。

こちらが奄美の泥、大変キメ細かいもので泥パックのような滑らかさです。泥田の中に生地をくぐらせることで、繊維に泥の粒子が固着します。

トロッとした奄美の泥の粒子、ミネラルの塊である。

小さな粒子が繊維の隅々にまで行き渡り、テーチギに含まれているタンニンと泥の中の鉄分が反応して黒く変化していきます。何度も染めを繰り返して、赤茶から独特の渋い黒色に変化していくのです。

一口に「染めを繰り返して」と言いますが実に大変なもので、「気軽に体験」というレベルではなく、ある程度覚悟を持って行う必要があります。

泥田の中で泥を攪拌、十分に泥が繊維に行きわたるようにする。

染め体験には2〜3時間という時間を要するのと、車輪梅での草木染めの繰り返しと泥田に入って上がっての繰り返しが必要です。

体験レベルとはいってもかなり本格的なもので、実際の染め工程と遜色ありません。

【[{(車輪梅の煮汁に糸を揉み込み浸染)→ 石灰水で中和 }×20回 ]→ 泥田で鉄分媒染×3回 】  ×3回

興味がない人や、根気のない人は途中で飽きてしまうでしょうし、慣れない人が作業を行うと翌日は筋肉痛になることでしょう・・・

 

こちらが染め上げたタンクトップ、元の素材は某巨大アパレルブランドの既製品です。

元は藍系の色でしたが見事に黒に染まっています。

染める前のものと比べてみました。

よく見ると使われてい素材によって染め上がった色が違うことがわかります。このタンクトップはベースは綿とボリエステルの混紡糸で作られていますが、縫製箇所によって使われている素材はまちまちです。それぞれの素材によって黒の濃淡違うことがわかります。

肩紐の部分、全体的な組織はニット(リブ編み)で作られている。

草木染の適正がないポリエステルの部分は元の青い色が黒に変化し切らずに残っているのです。

わかりやすい例では100%化学繊維で作られた洗濯表示タグをみてみると、わずかにくすんだ灰色でほとんど染まっていないことがわかります。

洗濯表示タグ、綿73%ポリエステル27%の表記がある。

泥染めはベースが草木染ですが、ポリエステルには車輪梅の染料が定着せず、その後にいくら泥染めを行っても染まり切らないのです。

繊維を拡大してみます。

染まり具合によって茶色と黒色の糸に分かれていますが、混紡率の違いによるものと推察されます。先染めの商品を後染めすると、組織や糸の混紡率によって染色結果が異なり、それが生地の表情を豊かにします。今回は数百円で購入できる某ファストファッションブランドの商品を使用しましたが、染め上がった商品はとても魅力的な黒に変化していました。

何の変哲もない数百円のTシャツが、どんなハイブランドでもかなわないスペシャルアイテムに生まれ変わります。化学染料では決して生み出すことのできない奄美ブラック、奄美を訪れた際には是非試してみてください。

 

 

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