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問屋の仕事場から

2019.03.19
エコな着物? 世界に誇る究極のエシカルファッションとは

世界的ハイブランドをはじめ洋装の世界では在庫を焼却処分することでブランド力を維持してきましたが、消費者からの強い批判を受けることとなりました。そして在庫の焼却が一般的でないエコな和装業界においては、低い在庫回転率や在庫過多による値崩れが問題となっています。しかし着物はそれらの在庫問題を解決する究極のエシカルファッションとして世界に誇ることのできる可能性を秘めています。

 

エシカルファッションとは

アパレル業界において昨今聞かれるようになったエシカルファッション、なかなか聞きなれない言葉ですがエシカル:ethical とは、倫理的や道徳的といった意味です。エシカルは今後の消費行動のキーワードとなる言葉で、購買行動において商品が倫理的な製造プロセスにおいて作られているかを重視することをエシカル消費といいます。例えば昨今の非人道的屠殺方法での食肉生産がバッシングされていますし、広義の意味では犬食や鯨食、フォアグラの問題など多岐にわたります。個人の考え方にもよるところが大きいのですが、社会的道義に照らしてみて疑問が出てくるものは全て対象になるといってよいでしょう。

バングラディシュの縫製工場の崩壊、4000人近い死傷者がでた史上最悪の事故である。

アパレル業界においては環境負荷の少ない素材としてのオーガニックコットンや児童労働などの問題を排除したフェアトレードが取り上げられることが多く、実際の消費行動につながっています。

しかし倫理、道徳を優先すればコストを圧迫、既存の製造業が成り立たない状況に追い込まれるのは確かで、消費者の顔を伺いつつもコストを重視して事業を継続していかなければなりません。国際的な制度の確立やモラルの向上、技術革新などで長期的にはクリアされるのかもしれませんが、当面は難しいかじ取りが求められます。

愛らしいカイコガの成虫、成虫になり産卵することができるのはごく一部。シルクの廃却は道徳的に完全にアウト。

焼却処理が一般的でないエシカルな呉服業界ですが、企業活動に大きな影響を与える在庫問題が横たわっていることが確かです。そんななか 「別誂え」という方法で一つの解決策を示すことができます。

 

在庫問題を解決する「別誂え

呉服という商売はやりようによって沢山の在庫を抱えずに効率の良い商売が可能になっています。例えばフォーマル着物の世界では在庫を極力持たずにお客さんから白生地の状態から任意の柄を作る、別誂えという方法が確立されています。必要な分だけを作るという究極にエコで効率的な商売、さらに個人規模で営業しているのであれば経費を極力抑えることができ、それを商品価格に反映して消費者ともにWin-Winの関係を築くことができます。

フォーマル着物の別誂えは生産ロットの概念がないから可能な商売といえるかもしれませんが、実はおしゃれ着、工芸織物の世界でもやりようによっては費用を抑えつつも1点作りが可能です。廣田紬では全国の産地とのネットワークと長年にわたって別誂えに対応してきた実績があります。

⇒ 工芸織物を別誂えするメリット

縞、格子のシンプル柄の場合、一反から作ることのできる、別誂えの草木染久米島紬。

消費者としては若いうちは流行に左右され、様々な着物を試したいかもしれませんが、自分のファッションスタイルが決まってくると同じような色味や柄行に落ち着くようになります。

そうなると、わざわざ沢山の商品を集めてその中から選ぶという購買スタイルでなく、自分だけの思い入れのある一点モノの特別な着物を作ることに移行してもよいと思います。特に紬をはじめとする工芸織物はフォーマル着物と異なる不急不要な趣味の世界のもので、じっくりとお客様とお話をした上で誂えることが可能です。もちろん販売側も余計な営業コストや在庫リスクを伴わないメリットを価格で還元していく必要があります。

成熟した社会では「エシカル思考」が消費行動のキーワードになる時代が来ている。

 

たくさんの商品の中からお気に入りを探すのはショッピングの醍醐味ではありますが、必要以上の大量生産、過剰在庫は廃棄問題や値崩れといった弊害をもたらしています。大資本の世界的ハイブランドであるバーバリーでも理想的な解決方法を出すことはできないでしょう。

呉服という特殊なカテゴリから提案される 「別誂え」という手法は過剰在庫問題に対する誇らしい解決方法です。さらにそれが草木染の手織り紬であればそれこそ究極のエシカルファッションです。

紬は10年20年と使って生地が少々痛んでも、洗い張りをして裏を使い仕立てれば新品同様に生まれ変わります。普遍的なデザインは親から子、子から孫へと受け継ぐことも可能です。洋服は立体裁断で仕立てるので素材に無駄が生じますが、直線立ちの和服は無駄がほとんどありません。古くなった着物を解けば、様々なものに生まれ変わる素晴らしい生地にもなります。

 

100年前の生地を複数使って仕立てられた羽織、結城紬の絣柄の資料としての参考品。

紬をはじめとする工芸織物が粋なのは、我が社はエシカル思考であると大々的な広告を打ったり、オーガニック素材である等の目立つタグをわざわざつけたりしないことです。紬の成り立ちからすると、エシカルなのは当たり前のことですが、もう少し消費者にアピール、商売染みてもいいのではと思うことがあります。

「粋」なのは柄行きや素材の質だけでもう十分、エシカルであることをしっかりとアピールすることで少しでも市場規模の拡大につながれば、産地、消費者、流通、全てがWin-Winの関係になることでしょう。

 

 

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