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問屋の仕事場から

2018.07.09
真に文化的な紬織物

日本の染織文化というと友禅染や西陣織といったものがまず浮かぶのではないでしょうか。事実、それらは圧倒的な市場規模を持つことから着物を語る上では外せない存在です。しかし友禅や西陣織は公家などのごく限られた層の為に発展した文化ですが、紬をはじめとする伝統工芸織物は庶民の文化といえるでしょう。地味に思える庶民の文化ですが、それらの文化的に豊かさには目を見張るものがあります。

 

辺境に溜り発展する文化

文化や技術はそれが起こったところから波紋のように広がります。印度や中国から発した染織文化も様々なところへ伝播し、日本にも伝わります。東の辺境の果てであった日本においても、都から津々浦々までその文化、技術が伝わり、独自の発展を遂げることになりました。

都は新しい文化が生まれる場かもしれませんが、それがそのままの形で長くとどまり続けることは稀で、更に伝播した先で独自の進化を遂げてきたのです。都はあくまでも消費地であり、生産地ではありません。古い文化はとどまり続けることを許されず、常に変化を求めて動いているのです。

一方、伝播した文化は地方に溜まります。人、物、サービスの交流が盛んでない地方はその保守的な性質もあいまって一旦根付いた文化はなかなか形を変えません。ライフスタイルの変化、人口減などで文化の多様性が失われつつありますが洗練を重ね独自に発展、現在まで引き継がれ生き残っています。都会では既に廃れてしまった文化、それが世界に誇ることができる日本の伝統文化の根源になっている事実があります。

平泉の風景

平家が逃れた平泉、様々な文化が伝わった。伝統工芸品では「秀衡塗」で知られる。

染織にとどまらず大半の伝統的工芸品が地方に偏っている理由は、都ではコストの観点から競争力をとても維持できず、成り立たないことも大きな理由です。東京や京都でも様々な伝統工芸品がありますが、一部のカテゴリでは製造に関わるかなりの部分を近郊の生産地に頼っているという現実があります。例えば西陣織、実際の機場が丹後や浜松にある商品や、果ては中国で作っていたりと実際は産地移転しているのではないかという状況です。

世界的にもこの流れは同じことが言え、民族衣装を作り続けているのは山岳地や孤島、貨幣経済が成り立たないような僻地であることが多いのも事実です。

ミャンマーとタイの奥地で機織りをするカヤン族の女性。

実は田舎のほうが文化度が高い

都会は文化の発信拠点として栄えていて、さぞそこに住む人たちの文化度は高いものであろうと思われるかもしれません。しかしそのライフスタイルといえば文化を感じさせるものはほとんど失われているのではないでしょうか。寺社仏閣こそ残っているものの、まさに都会はコンクリートジャングル、新築であれば仏壇のある家は少数派、集合住宅に至っては畳のある部屋も珍しくなっています。住空間から既に日本文化が失われているとなっては普段生活していて伝統文化を感じる機会はありません。

一方、田舎においては古くからの家制度がまだ残っています。宗家を中心とする伝統的な家屋は昔ながらの日本建築、場合によっては昔話に出てきそうな茅葺の立派な住居であったりします。

かやぶき屋根の家、風雨に耐えまだまだ現役。

田畑を耕し、里山から山の恵を得る暮らしはついこの100年前までほとんどの人がしていたことです。しかし帰省して田舎の家に帰った時くらいしか、伝統的な日本文化に触れることがない人も多いのではないでしょうか。

都会暮らしの人に虫や木や花の名前を挙げさせると、本当に無教養であることに驚ろかされます。私たちが普段纏い、食べ、住むところの成り立ちについて、関心を示す機会すらないのでしょう。本当の文化的教養とは私たちが生かされている根源とは何か、それを知るところから始まります。

 

田舎の名のしれぬ織物こそ文化の塊

日本文化というと歌舞伎や京懐石などを想像する人が多いのですがこれらは本当に一部の都会の文化にすぎません。都会では様々な文化が失われましたが、自然と共生する田舎にこそ素朴ならがも誇るべき日本文化が溜まっているのです。

友禅染や西陣織は公家などの限られた人々の都会の文化でした。友禅染はインクジェットプリントを代表するコストダウンに向かい近代的技術で作られるようになりました。西陣織は海外への産地移転や、様々な付加価値を付ける取り組み(技術的には素晴らしい点も多い)が行われ、原型をとどめているとは言いにくい状況です。このような都会の文化である両者は古来から伝わる伝統産業かというと疑問符がつきます。

日本各地で織られていた古代裂を集めた標本(昭和7年発行)、既に伝統が途絶えてしまった産地も多い。

一方、田舎で細々と行われる織物づくりは数百年に渡る伝統に沿ったものです。紬をはじめとする伝統工芸織物の大きな魅力は、その土地風土にまつわる興味深い歴史、豊かな自然を背景にした手仕事の味です。そして数字や量を追わない個人工房であればあるほどその傾向は強く、地元で採れる恵、歴史が丁寧に織り込まれています。

どのようにして糸が作られるのか、染料に何を使い、どのように染められるのか、どうやって織られているのか、これらを紐解いていくことで人が自然と共生していた時代の片鱗が見えてきます。風土に思いを馳せ、手仕事の味と自然の恵を感じられる紬は大変な文化的魅力が詰まっているといえるでしょう。

 

 

 

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