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問屋の仕事場から

2024.08.20
25年後の2050年には伝統工芸品の産地が消滅する?

人口動態によると25年後の2050年には1億人を割り込み9500万人程度に、高齢化比率は40%に達すると見込まれています。人口戦略会議によって分析された消滅可能性自治体が発表されており、全国1729自治体の4割にあたる744自治体で20~39歳の女性人口が半減し、消滅の可能性が非常に高いとされています。伝統工芸織物の産地も例外ではなく、消滅が危惧されている産地を調べてみました。

朝日新聞のページがわかりやすくリスト化されおり、MAPで可視化もできてとても参考になります。このMAPでは濃い青部分の自治体が消滅可能性が高く、すでに過疎地域が軒並みに消滅に向かっていることがわかります。

10年前の2014年にも同様のリストが作成されていていました。その際に危機感をもった一部の自治体が子育て支援などに動き、消滅可能性自治体から脱却して自立持続可能自治体となったところもあります。しかし全体としては消滅可能性が増え、他の地域からの人口流入に依存しつつ、出生率が低い「ブラックホール型」の自治体となるところも現れています。

生産可能人口、妊娠適齢期の女性が減り、地方は大変悲観的な状況にあるといえます。疲弊が進む伝統工芸の産地も悲観的な予測がたちますが、実際はいかがなものでしょうか。伝統的工芸品に指定されている染織アイテムで自治体を抽出してみました。

人口ベースでは伝統工芸織物の産地は安泰?

結果、東北、関東の一部自治体を除いて意外にも生き残る結果となりました。25年後は私たちはまだまだ伝統工芸織物に親しむことができそうです。

人口戦略会議は出産適齢(20-39歳)の女性人口が著しく減る(−50%)自治体を消滅可能性と定義づけています。しかし伝統工芸織物の製造に従事する平均年齢は70歳前後、自治体の消滅可能性とは基準のベースが大きく異なります。幸か不幸か、生産可能年齢(15-65歳)から外れた人たちに製造を依存している伝統工芸織物は地域の高齢化による弾力性が低いと言えそうです。

経済規模からすれば弱者的立場の伝統工芸産業ですが、地域に根付き100年以上の歴史に裏打ちされた底力があります。最新の半導体工場は25年後の2050年には残ることはありませんが、伝統工芸品は2050年どころか2100年であっても永らえそうです。

昔は若者の仕事であった繊維産業は年配者にシフト

2100年の予想人口5000万人はその200年前の明治期の人口と同じです。当時は繊維産業が一大産業として国を支え、今に生き残ったものが伝統工芸織物と言われています。200年を経て織物全盛期と同じ人口となり、さらに高齢者の多い(伝統工芸織物の主力年齢層)歪んだ人口構成となりますので、継続可能な気がします。

 

若手後継者不在で消滅する伝統工芸品

人口レベルで見れば高齢化が進んでもなんとか続くのでは?と思わせる伝統工芸品ですが、そのような簡単なものではありません。

人口動態、若年女性の増減とは相関が薄い伝統工芸織物の生産量ですが、人口減以上にその生産量は減り続けています。過去に記した大島紬の生産量のブログにもあるように、全盛期の1%台にまで生産量が減ってしまう事態が発生しています。大島紬は少々極端な例ではありますが、生産が旺盛だった頃の最後の団塊の職人の高齢化が著しく、これから従事者の数がガクッと落ちることが予見されます。

代わりに新しい若手が入り新陳代謝となれば良いのですが、お金にならない産業に若者は寄り付きません。従事者が減れば、供給量は落ち込みます。需給バランスが崩れて旺盛な需要が引き起こされて、工賃が上がり若者が仕事に飛びつき、従事者が増える、、、というケースは稀で、そのまま補充が効かず消滅してしまう事例が続出するでしょう。

伝統工芸品の製造を儲かる事業にするには、しっかりとマーケティングを行い、ブランド力を向上、付加価値をUPさせて十分な利益が取れる値上げが必要です。そして何よりも産地自らがそれらを成功させて利益を従事者に大きく還元させないと意味がなく、産地が長続きしません。

人口減の危機感とは別次元でピンチな伝統工芸業界ですが、悠久の歴史、伝統という唯一無二な強みを武器に再び産地を盛り上げていってほしいものです。

 

 

 

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