タップして閉じる

- ブログ -
問屋の仕事場から

2023.08.02
インボイス制度が伝統工芸織物にもたらす弊害

2023年10月から始まるインボイス制度(適格請求書等保存方式)、様々なところで反発が起こっていますが伝統工芸産業においても例外ではありません。

課税売上が1000万円以下の免税事業者は原則消費税を納付する必要がありません。商品を販売すると、商品の粗利と消費税10%が利益になる計算です。10%の益税は大きく、免税事業者であることは事業継続の重要な要素であるケースも見受けられます。

消費税が増税されればするほど益税を得ることができますから、不公平感が高まり、政府としても益税を看過できずインボイス制度がやっと導入されることになりました。

伝統工芸織物は分業や内職によって支えられていますから、多くが売上高は1000万円を下回る免税事業者です。インボイス制度導入に伴い、それら免税事業者にはさまざまな影響がおこります。

免税事業者のままでいればこれまで通り消費税の納税義務はありません。しかし販売先(問屋、機屋)は課税事業者であるケースがほとんどですから、販売先サイドが消費税を負担することになります。

そのため、免税事業者のままでいる場合には以下のような影響が出ると危惧されています。

1、取引を打ち切られる、もしくは取引額が下がる
2、消費税分の値下げ要求が行われる
3、新規顧客の獲得が難しくなる

インボイス制度をめぐっては漫画家や声優、ITエンジニアなどのフリーランスが声高にして反発してきました。発注側の権限が強い上、低収益の過当競争の中では廃業の危機にあると言うのです。

一方、伝統工芸織物はどうでしょうか。

従事者の平均年齢は高く、80歳オーバーというのも珍しくありません。織物製造は商売というよりかはライフワーク、年金の足しとしての形で続けている方が多い状態です。数十年間税務処理をしたことがない人間に急に煩雑な書類の作成(実際は煩雑ではありませんが)を要求するのは無理があります。

原料になる糸づくりも内職で貴重な現金収入。

先の漫画家や声優のケースと大きく違うのは発注側の権限より、作り手の方が強いという点です。機屋や問屋はどうにかお願いして作ってもらっているという状況で、適格事業者にさせることはおろか、面倒な書類作成なども強要することはできません。

あるケースでは機屋が織り子さんがインボイス対応できないため、機屋がその分の消費税を負担、その分のコストUPは商品代金に反映されて10月から値上げとなります。コストUP分は小売価格にも反映されて最終的には消費者にしわ寄せが行く形ですが、このような歪な値上げは好ましくありません。

いままで益税を享受してきたのですから、これからはきっちりと消費税を払ってくださいという理屈はもっともです。しかし面倒な制度を押し付けるくらいならやめますわ、、なんて強気の態度で出られる場合はどうしようもありません。

インボイス制度は10月に始まり、しばらく経過措置もあるため、その影響はどの程度のインパクトになるかは未知数です。しかし伝統工芸織物にとっては弊害が大きい制度であることは確かで、歪な値上げをまねく予兆がすでに出てきているのです。

 

廣田紬にご興味をお持ちくださった方はこちら
詳しくみる