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問屋の仕事場から

2021.05.29
呉服屋の数ランキング、相関関係から見えてくる文化度の高さ

全国に約8000軒あると言われる呉服店、都道府県別に見るとその数が多いのはもちろん東京都ですが、人口あたりで見ると県民性に強い相関があることがわかります。

100年前は全ての衣料品屋が呉服店といえた時代でしたが、現在は特殊衣料品という有様。かつて2兆円(それでもユニクロの持株会社の売り上げ以下)産業と呼ばれた和装関連産業は、今年のコロナ禍においては2000億円を割り込むことが確実視されているなど、斜陽産業の代表になっています。

なだらかな右肩下がりが続く呉服市場の売り上げ推移。矢野経済研究所調べ

看板を掲げてはいるものの、実際は稼働していない幽霊営業のお店も多数見られます。地方都市ではそれまで店を構えていた一等地から撤退して自宅で細々と営業、商店街などでは1Fを他に貸し出し、実質不動産賃貸業となるお店も増えています。

気がつくと街の呉服屋さんである専門店はほとんどなくなり、大規模なチェーン店や振袖に特化した振袖屋さんが主流となっているのが現状です。

呉服店の内訳、チェーン店が4割を占める。矢野経済研究所調べ

特徴ある店主が独自性のある店づくりを切磋琢磨していた昭和の時代が懐かしく思えますが、これも時代の流れです。そんな呉服店の数を都道府県別にまとめたランキングが大変興味深かったので紹介したいと思います。

※データは都道府県別統計とランキングで見る県民性 (https://todo-ran.com/t/kiji/21717)より引用

都道府県別に上位10と下位10を並べてみました。

軒数別では東京、愛知、大阪がトップ3にランクイン。トップ10を合計すると4000軒近い店舗数があり、全体の半数近くを占めています。人口が多ければ呉服店の数も多く、人口規模に強い相関があることがわかります。誰もが納得のランキングですが、人口10万人あたりの軒数に着目すると興味深いことがわかります。

人口比率でランキングし直すと、福井、富山、石川の北陸3県がトップ3にランクイン。他の顔ぶれを見ても4位が京都という特異点(和装集散地でありメーカーや問屋が販売店を兼ねるケースも多い)を除き、人口規模の大きさとは相関がないことがわかります。むしろ人口規模と負の相関すら垣間見え、ワースト3が、人口上位の神奈川、千葉、埼玉の関東3県なのも興味深いポイントです。

自然豊かな北陸三県がトップ3、写真は富山市内から望む北アルプス。

10万人あたりの呉服屋の軒数において、トップ3の北陸3県とワースト3の関東3県の平均値を比べるとざっと5倍、県民性にも様々な種類があるかと思いますが、ここまで差が開くのも珍しいと思います。

北陸3県の県民性として保守性が強い、勤勉で忍耐強い、浄土真宗の信仰心が強い、自民党が強いなど少なからず共通点があります。これらは呉服店の多さと相関をとるのは難しそうです。しかし生花や茶道教室などの和の文化教室が多いこと(人口比)に強い相関があり、「和の文化的教養が高い≒呉服屋が多い」ことと結びつけられそうです。

関東3県が和の文化的教養が低い?と断じることはできませんし、何をもってハイソサエティーと定義づけるのかも難しいです。しかし田舎ほど色濃く地域の文化が残っており、畳文化も引き継がれていることは確かなのです。

参考:真に文化的な紬織物(辺境で文化が花開く理由を述べています)

蔵の街にある立派な呉服店、商店街にも複数の呉服専門店が残っていることに感嘆する。

呉服店は着物や帯とった商品の提供は当たり前ですが、和の文化教室などを開催するなど、失われつつある和文化のつなぎ手としての立場があります。呉服店が中心となって和文化を継承し、盛り立てていく。呉服店の女将を中心として、文化意識の高い顧客のコミュニティーが作られているケースはたくさんあります。人口当たりの呉服店の多いということは、その地域の誇りでもあるのです。

数学的に因果関係を証明したわけではなく、少々こじ付け感があるかもしれませんが呉服屋がたくさんあるということは文化度が高いと言えないでしょうか。

文化度においては大都市の方がよっぽど田舎者という視点が浮かび上がってくるのです。

偏差値に換算した都道府県別の和の文化度の高さ(人口当たりの呉服店の数)。


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