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問屋の仕事場から

2017.06.29
小千谷縮の見分け方(後編)

小千谷縮

前編ではA(重要無形文化財指定技法)B(手織り伝統的工芸品)C(機械織りの普及品)3種類に分類しました。
後編では実際に各商品の具体的特徴を見ていきます。

前編はこちら

3種類の小千谷縮

左からA、B、Cの順に小千谷縮を並べてみました。

Aは商品に重要無形文化財の記載、織り始めと終わりに割り印、個体識別ラベルが貼られています。価格相応だけあって、重要無形文化財と記載された桐箱入りです。
よく誤認されることがありますが、商品自体がなにかの固有の文化財というわけではなく、重要無形文化財に指定された技法で作られた商品であるということです。

 

重要無形文化財と押印された渋札

重要無形文化財と押印された渋札

B,Cには産地証明である小千谷織物之証が張られ、さらにBは伝統的工芸品であることを示す伝産マークが張られています。
証紙類を確認すれば容易に3者の区別はつけることができますが、反物の耳の部分を見れば自動機械織りで織られたCはA,Bとは別であることがわかります。

小千谷縮の廉価品の証紙

産地組合の証紙、「杉山織物」と織元名も記載されている。

〇拡大

次に各商品の組織の拡大写真を見ていきます。色が異なるため比較しにくいのですが、経糸10本に対してそれぞれを拡大してみました。

生地の拡大

Aは手績み苧麻とわかる毛羽立ちや撚りつないだ形跡が見て取れます。糸ごとに太さのバラつきがあり均質なものではありません。人が手間をかけてひとつひとつ糸づくりをした証拠です。経糸に比べ緯糸が細く、より多く撚りがかかっているのも分かります。

生地の拡大

Bは紡績ラミー糸を使用しているため、糸が比較的均一なのが確認できます。緯糸の打ち込みの本数も少なく、Aと比較して低密度であることがわかります。この商品は絣で模様を出しているため、先染めによる色の変化が見て取れます。

生地の拡大

CはAと比規則正しく、整然と並んでおり、つねに同じ動作をする自動織機によって正確に織られているのがわかります。そして緯糸の打ち込みが少なく、密度が低くなっています。そして太い経糸に対し、かなり細い強撚糸の緯糸が通っているのが確認できます。

〇風合い

Aは反物を持ち上げた瞬間にえもいわれぬ極上の風合いが伝わってきます。文章での表現が困難なのですが、Cは反物自体がどこかペタッとした印象なのに対し、Aは強いシャリ感が伝わってきて麻本来の風合いを主張してきます。Bも手織りのよい風合いが伝わってきますが、Aの迫力にはとても及ばないものです。

風合いの違いを素材、織技法から検証してみます。

手績みの苧麻糸は天然の麻を極細に裂いて撚り結んで糸にしています。自然そのままの繊維が細くなっただけなので、断面も不規則な形状です。麻のシャリ感が強く出るのはこのためです。

苧麻の素材

それに対し紡績ラミー糸は麻を複数の工程を経て細い糸に加工し、圧縮空気で結んだものです。結び目が存在せず、断面が均一な糸になります。麻由来の一定のシャリ感は残りますが手績みの糸には遠く及ばないものです。

そして織技法、Aは人機一体となって織る地機でつくられています。地機で織るとなると高機の何倍もの手間を要しますが、手績みの苧麻は無理な張力を張りすぎると切れてしまうため、高機を使うことができません。さらに地機でも細心の注意を払ってもどうしても糸が切れてしまうので、その場合は一つ一つ繋ぎ合わせていかなければいけません。高機を使えないが故に地機が生き残ったのですが、その手間はしっかりと風合いという付加価値につながっていました。100%手績苧麻×地機で織り上げた風合いは一度触れると忘れることができないくらいの印象を与えます。

手績みの苧麻糸、人の手作業で途方もない時間をかけて作られる。

昔ながらの手法を頑なに守って作られるAタイプの小千谷縮。その技法は世界無形文化遺産の域にまで達しています。その素材、技法を紐解いていくと素晴らしい風合いにつながっており、「重文」「ユネスコ」といったレッテルだけでないことがわかるものに仕上がっていました。

Bタイプは紡績ラミー糸を使うことでコストダウンを実現し、手織りの風合いを十分に楽しんでもらえるものです。機械織りでは困難な絣文様も特徴でワンランク上のおしゃれ着としての位置づけです。

そして、現代の技術で大量に安定的に生産できるようになった結果、Cタイプが値頃な価格で流通し、誰でも手の届くものとなりました。和装だけではなく、洋装や雑貨、インテリアにまで使用されています。決して安っぽさがあるわけではなく、現代感覚あふれるモダンな柄展開で幅広い年代の人に受け入れられるでしょう。

以上、ABC3種類の小千谷縮、すべて同じ名前を冠してはいますが、素材、技法が異なり、風合いに影響していることがお分かりいただけたと思います。小千谷縮をお求めの際は参考にしていただければ幸いです。

重文技法で作られた最高級の小千谷、生地から発せられる迫力が段違いである。


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