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問屋の仕事場から
- 2020.11.22
- また一つ失われる結城紬の技術
結城紬の多岐にわたる工程は分業制ですので専業の職人が辞めてしまえば、簡単に代替えがきかなくなります。コロナ禍において生産数の減少は加速度を増し、また一つ大切な技術の伝承が途絶えつつあります。
結城紬の工程で有名なものは「糸つむぎ」「絣括り(くびり)」「地機織り」の3工程ですが、他にも20以上の工程があります。全体の生産数が減理、従事する職人が減ってしまうと一人が複数の工程をこなす多能工化が必須になってきていますが、どうしてもその道を極めた人でないとできない熟練の技が存在します。
結城紬の絣作りの工程の一つである「絣のすり込み」、この核心的な工程が熟達の職人の離職により危機に瀕しています。
問題となっているのは白地(薄地)に総詰の亀甲絣や十字絣といった生地全面に細かい絣が入る柄、今後は作ることができないというアラームが鳴っています。
薄地の生地に柄が浮き出るタイプは刷り込みで絣が作られています。従来の「括り」では防染箇所(面積)が多くなるため、白地の商品の絣は糸へ直接染料を刷り込む「すり込み」が行われています。刷り込みといえば「括り」より簡易な工程かと思われがちですが、図案に従って細かい意匠を転写していく緻密な作業です。直接刷り込むため間違いが許されない作業で、「括り」と変わらない根気と集中力が求められます。
刷り込みの技術は塩沢など他産地から伝わった技術で、元々結城紬本来のものではありませんでした。重要無形文化財の指定要件技術には数えられていないのはそのためです。この刷り込み技術を導入したおかげで、明るく淡い地色のデザインを作ることが可能になりました。それまで黒や藍系統の商品だけだった結城紬にとっては革命的な技術だったのです。
当初は大柄の十字絣などでしたが、亀甲絣で絵柄を表したり、前面に十字絣を敷き詰めたりすることが可能になります。
その極致とも言えるのがこちらの160亀甲と十絣の多色の組み合わせ、技術の全盛期に作られた力作です。現在では160ベタ亀甲のすり込みができる職人が引退してしまったため、幻の商品となってしまいました。
メルセデスのSクラスが買えてしまうほどの価格の商品、これほどの商品を作る需要(4反作り)はもうあえませんし、そもそもものづくりの前提となる糸の確保ができません。
話がそれましたが、この刷り込みの技術を利用した全面のベタ絣、総詰め絣の商品が消滅しようとしています。
結城紬の刷り込みは他産地のような効率的な捺染技法ではなく、図面を直接糸に当てて転写(墨付け)、そこにヘラのような器具で一つ一つ手作業で刷り込んで行きます。結城紬の絣の大きさが全て微妙に異なっているのは、一つ一つ手作業でこの転写作業を繰り返しているからです。
絣が細かくなればなるほど、気の遠くなるような繰り返し作業が続きます。
全てを間違いなく刷り込み続けるには大変な熟練度が必要です。総詰柄の場合、絣のピッチが少しずれてしまうと全体にズレが影響してしまいます。絣付を間違うと高価な結城の手紬糸が無駄になってしまいますし、製織段階で発覚した場合は取り返しのつかないダメージになります。
そして困ったことに、この作業は継続して行わないと腕が鈍ってしまい、技術の維持ができないのです。
今、問題となっているのは総詰め柄の商品の受注がないことで、職人が継続して行うだけの仕事量がありません。作業間隔が半年ほど空いてしまえばカンが狂い、元の感覚を取り戻すことは難しく、仕事を受けるリスクが大きくなります。
生産量が多かった昔であれば多少のミスも全体で吸収できましたが、現在はミスが許されず次世代への技術の伝承もなかなか進みません。技術が一度途絶えてしまうと、復旧させるのは大変な時間と手間がかかるのです。
当たり前(技術としては大変なものですが)の柄だと思われていてた、総柄の亀甲絣や十字絣が作成不可能になるその日がすぐそこまできています。飛び柄などの簡単な商品だけとなってしまえば実に寂しいものです。
産地の衰退は構造的な問題であり、今流行りのクラウドファンディングなどで解決できるものでもありません。
昭和の後期に最高潮までに達した技術の残滓とも言える総詰柄(白地)の結城紬、作成可能な最後のチャンスが「今」なのです。
廣田紬では1反から別誂が可能ですので是非お問い合わせください。