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問屋の仕事場から

2019.11.04
反物の入れ物考察 桐箱は不要のすゝめ

桐箱に収まった反物、密閉された空間でしまわれることで、大切に扱われるべき物であるということが伝わってきます。しかし消費者側の立場に立ってみれば、仕立てた着物は元の桐箱には収るはずはなく、逆に扱いに困る邪魔な存在です。大そうな桐箱は誰の何のためにあるのでしょうか。

中身がすでに売れて空の桐箱達、、、使い道がないので程度が良いものは産地に返却することも。

通常織元が問屋に商品を送付するときは、生地を芯木に巻いて反物の状態で送付します。通常は反物を紙などの保護材に巻き、段ボールで梱包するのですが、稀に専用の箱に入っている商品があります。

小売価格が数百万になる商品であったりするケースが多いのですが、並みの価格帯の商品にも大そうな桐箱がつけられているケースがあります。

いくつか種類を紹介していきます。

 

まずは王道の桐箱

こちらは重要無形文化財技法でつくられた小千谷縮、小売価格数百万の代物です。箱書きには製造者の名前、落款まで押印されています。勘合具合のよい良質の桐箱が使われており、中身に見合った相応しい箱といえるでしょう。

桐箱は安価な無名の紬にも付属しているケースもあり、その場合は安っぽい加工精度の悪い箱であることもあります。

次は紙箱、

表面に和紙が使われた紙箱です。桐箱に比べると圧倒的に扱いやすく、すぐにあけることができます。

そして桐箱調の紙箱も存在します。

仙台平のもの、美しいよくできた紙箱。

一瞬桐箱に見えるのですが、木材のような加工がしてある紙箱になります。フェイクとわかっていても普通の紙箱に入っているものより大切に扱いたくなってしまいます。

また、仮絵羽仕立ての商品は袖畳をした状態で大きな箱に納められます。

大島紬の仮絵羽の箱。

さらに、極め付けはこちら。

漆塗りの立派な箱です。結城紬の200亀甲細工というとんでもない商品(数千万円の価格がついていたとか)を作成した際に、それ相応の箱ということで専用に作られたものです。

いくつか箱類を見てきましたが、やはり箱書がされている桐箱を見ていると、中身は厳かで只者ではないと思わせられます。高級な掛け軸の桐箱を彷彿とさせる作りのよい箱、達筆の文字に落款、これらは高額品を購入した本物の証として残しておきたいと思わせるものです。

しかし桐箱本来に期待されている役割を考えてみると、ナンセンスな存在であることに気づかされます。

 

使いようがない桐箱

箱に求められる役割は、保護、保管が第一目的です。すなわち外からの衝撃保護、虫の侵入やカビなどから中身を守ることを指します。しかし箱類は嵩張るため私たち流通サイドが商品を取り扱う際は、別の場所によけておくことになります。

埃や汚れから反物を守るカバー。保護はこれで十分、販売後はリサイクルされる。

商品自体は割れたり破れたりするものでないので文庫(反物カバー)を巻いて、汚れや紫外線から守るだけで十分です。虫やカビも環境さえ気を付ければまったく問題ありません。桐箱はキズが付きやすく、輸送時に割れる可能性もあり取扱いに困ります。そしてどうしても慎重に反物を扱いたい場合は紙箱を使います。

長期保管するのに桐箱は適してはいるのですが、あくまでも売り物ですので流通サイド(問屋も小売屋も)としては保管だけしておくわけにはいかないのです。

桐ダンス

桐箱と同じ機能を持つ桐ダンス、箱は不要に。

そして消費者にとってはこの桐箱はさらに不要なものになります。納品されるのは仕立て済みの着物で、元の桐箱には決して入りません。着物はたとう紙に畳んで桐ダンス等にしまうことになります。高額品の箱ですので簡単に捨てるわけにはいかず、40センチ以上ある箱ははっきり言って邪魔以外の何物でもありません。立派な箱書きは不要だからその分を値引きしてくれと怒り心頭のケースもあるでしょう。

箱が必要な人は反物の状態で保管しておきたいコレクターくらいのものです。

 

商品が格上に見える化粧箱としての桐箱

扱いがややこしく機能不完全な桐箱、果たして誰にメリットをもたらすために存在しているのでしょうか。

それは売り手が買い手(一般的には消費者)に、大そうな桐箱に入っていることで高級感を演出するために存在しています。素人は軽い紙箱に入っている商品よりも、高級そうな桐箱に大切にしまわれている商品のほうが良いものであろうと考えてしまいます。

桐箱、紙箱両方が用意されている宮古上布。どちらも中身は同じ。

出生の怪しい謎の偽物紬に、高名そうな作家先生の落款、難しい証紙でデコレーション、あとは立派な箱書きをした桐箱があればそれはもう大変な貴重な商品へと様変わり・・・

織元が出荷時点でそういった仕様にしているのは100歩譲って、首をかしげたくなるのは製造者の意向にかかわらず流通サイドが勝手に箱を作ってしまうことです。

そう、桐箱は買い手へのアピール、販促ツールでしかないのです。

 

※昔は権力者の奥様向けのプレゼントとして、桐箱入りの反物が袖の下として使われていたそうです。

 

No桐箱運動のすゝめ

流通サイドとしては桐箱に反物を長期保存することで、ワイナリーのようなプレミア商売をすることはできません。織元も桐箱を購入して箱書きをする費用がかかり、それらは当然製品コストに上乗せされています。

反物をしまう桐箱が本当に必要になるのは織物コレクターくらいで、誰にとってもメリットはないのです。良識ある販売店様は消費者に桐箱がわたることに意味がない(むしろ害悪)ので、問屋から仕入れ時に桐箱は不要とおっしゃいます。

桐箱入りの商品を買う場合は勇気をもってこう言ってみてください。

「桐箱は不要なので値引きしてください」

不要なアイテムを世の中からなくす魔法の一言、川上に届けば少しでも製品コストが下がるかもしれません。無粋な過剰デコレーション製品もなくなることでしょう。

使い道のない桐箱達、、、 どうせなら仕立て上がりに即したものを誂えるべき。


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