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問屋の仕事場から

2023.09.08
現代の技術を融合させた?銀の伝統証紙

最近入荷した商品の中に見慣れない伝統証紙がありました。普通は金色の伝統マークなのですが、それは銀色に輝いています。見知らぬうちに切り替わったのかなと思いきや、それにはしっかりと意味がありました。

金色に輝く「伝統」マークの証紙は伝統的工芸品に付与される国のお墨付きとも言えるシールです。伝産法(伝統的工芸品産業の振興に関する法律:1974年公布)によって指定されるもので、以下の5つの条件を満たすことで指定されています。

1.主として日常生活で使われること

2.製造過程の主要部分が手作りであること

3.伝統的技術または技法によって製造されていること

4.伝統的に使用されてきた原材料を使うこと

5.一定の地域で産地を形成されていること

1.主として日常生活で使われるもの

冠婚葬祭や節句などのように、一生あるいは年に数回の行事でも、生活に密着し一般家庭で使われる場合は、「日常生活」に含みます。
工芸品は「用の美」ともいわれ、長い間多くの人の目や手に触れることで、使いやすさや完成度が向上します。また色・紋様・形は、日本の生活慣習や文化的な背景とも深く関わっています。

2.製造過程の主要部分が手作り

すべて手作りでなくても差し支えありません。が、製品の品質、形態、デザインなど、製品の特長や持ち味を継承する工程は「手作り」が条件です。持ち味が損なわれないような補助的工程には、機械を導入することが可能です。
製品一つ一つが人の手に触れる工程を経るので、人間工学的にも妥当な寸法や形状となりますし、安全性も備えています。

3.伝統的技術または技法によって製造

伝統的とはおよそ100年間以上の継続を意味します。工芸品の技術、技法は、100年間以上、多くの作り手の試行錯誤や改良を経て初めて確立すると考えられています。技術と技法は一体不可分なものですが、どちらかといえば技術は、「技術を磨く」といわれるように「一人一人の作り手の技量」「精度」に関わりが強く、技法は「原材料の選択から製法に至るノウハウの歴史的な積み重ね」に関わるものといえます。

伝統的技術、技法は、昔からの方法そのままでなく、根本的な変化や製品の特長を変えることがなければ、改善や発展は差し支えありません。

4.伝統的に使用されてきた原材料

3.と同様に、100年間以上の継続を意味し、長い間吟味された、人と自然にやさしい材料が使われます。なお、既に枯渇したものや入手が極めて困難な原材料もあり、その場合は、持ち味を変えない範囲で同種の原材料に転換することは、伝統的であるとされます。

5.一定の地域で産地を形成

一定の地域で、ある程度の規模の製造者があり、地域産業として成立していることが必要です。ある程度の規模とは、10企業以上または30人以上が想定されています。個々の企業だけでなく、産地全体の自信と責任に裏付けられた信頼性があります。

 

染織、陶磁器、木工など15の分野で240品目が指定されています。

その中でも糸偏関係は織物38点、染物15点、その他繊維5点 合計58点と一番多いメジャーカテゴリとなっています。

伝統的工芸品に指定されるとお国から庇護を受けることがが可能になり、様々な経費が補助されます。一方、「伝統的」という縛りの中で生産活動を続けなければならず、製造工程の進化を認めないという弊害も発生します。伝統工法を絶対に守らなければ伝統マークのお墨付きを与えられないとなっては、生産が途絶えてしまうケースも昨今では出てきました。

原材料の入手が困難になったり、人手不足、原料コストの高騰、様々な環境規制の結果、従来通りの伝統的工法を守ることができなくなっているのです。さらに伝統マークを貼り付けていることで、返品リスクとなる可能性も否定できませんでした。ある程度の曖昧さを内包した新しい銀の伝統マークが登場します。

 

なし崩し的に現在の生産体制の継続を図るため、新たに銀の伝統証紙が作られることになったのです。新しい銀の証紙には伝統的工芸品産業振興協会の「認定工芸品」である旨の記載があり、これまでの伝統的工芸品とは異なるものであることがはっきりと明記されています。

 

伝統的工芸品が無くなる日

新しい銀の証紙が発行されるに伴い、新技法で新商品の開発が進み販売促進につながるのではないかと思いきや、、事情はもう少し複雑なようです。

例えば、最近入荷してきた本場黄八丈においては伝統シールの証紙が銀色に切り替わっていました。

本場黄八丈といえば、本場結城紬と並ぶ超高級織物ブランドです。島から取れる草木で染めた糸を丁寧に織り上げたそれは、美しさと味わいのある大変魅力的な生地です。

よく見ると組合の証紙も以前のものと切り替わっています。はっきりと認定工芸品という記載があり、以前の伝統的工芸品とは違うものであることがわかります。

さて、何があったのでしょうか。

今更急に製造工程に変更があったとは考えられないのですが、銀の証紙が新しく発行されたこの機会に切り替えを行なったというのが正直なところでしょう。コンプライアンスが求められる今、真面目に対応してきた黄八丈の組合にはとても好感が持てます。

伝統工法を頑なに守っていないからと言って、商品価値が下がるものでしょうか。昨今の値上げトレンドに乗って実際仕入れ価格は大幅に上がっており、黄八丈はますます高級品として君臨していく予感がします。

証紙が変わっても美しい質感は健在、従来と全く同じ品質。

新しく登場した銀の伝統シール、実情に合わせるために切り替える事例が今後相次ぐのでしょうか。

その後入荷してきた黄八丈、刈安(コブナグサ)ベースの黄色い生地でしたが、これまでとは異なり銀シールでした。

ひっそりと切り替わっているわけですが、どうせなら新機軸を使用した新しい製品というポジティブな意味で使用してほしいものです。時代背景に合わせてアップデートすることで、特殊な「呉服」市場に向けられていた特殊性を解放、新しい需要を開拓することが可能になります。

たとえばこちらの商品は宮古苧麻織というもの。

従来の宮古上布は経糸、緯糸共に手績の苧麻糸を100%使用していましたが、こちらは経糸に紡績糸(ラミー、苧麻)が入っています。貴重な手績み糸の使用量を減らすと同時にコストダウンを実現しています。宮古苧麻織自体は前から存在していましたが、伝統マークのシールが貼られることでより信頼感がUP、商品の付加価値が増する気もします。

伝統マークが貼り付けてあることで、消費者が商品の購入の決め手にどの程度しているかわかりませんが、法的根拠のあるお墨付きという点で大変重要です。

ある程度の曖昧さを内包した新しい銀の伝統マーク、ガチガチの規則や伝統に縛られない自由な発想のものづくりができる点で大変画期的で、今後の新しいものづくりを楽しみにしたいと思います。

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