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問屋の仕事場から

2017.06.29
天然染料の魅力を考えてみる(後編)

枷糸

前編では天然染料の機能的なメリットを紹介しました。後編では機能だけでは推し量ることのできないメリットを紹介します。

 

紬をはじめとする伝統工芸織物は製品に地域色、歴史が色濃く反映されており、染料に関しても産地の特色を生かしたものが存在します。歴史や背景にあるストーリーに思いを馳せることで魅力を再発見することができます。

日本各地で様々なな草木染めが行われていますが、代表的なものを紹介いたしましょう。

 

・山形 米沢紬 紅花染

紅花はキク科の植物で、平安時代にはシルクロードを通って入ってきていました。花は黄色から赤にかけての暖色で、布に染めると紅色になります。口紅としても使われ、金と比較されるほど高価な物でした。山形では江戸中期に栽培が急速に拡大し、最上川経由の海運で京都や大阪といった都会に売られていきました。帰路は都で仕入れた商品を売ることでさらなる富を得ることができ、紅花商人によりもたらされた富は最上地方を大きく潤すことになります。

しかし町の女のように口紅にすることができなかった花摘み女たちは残った染料で紅花染をして楽しみ、生活に彩りを加えるようになったとか。ひとつひとつ女たちが手摘みしますが、そのトゲが刺さり、その血を吸った花はより赤く美しく染まるという悲しいストーリーでもあります。このあたりはジブリ作品「おもひでぽろぽろ」に詳しい描写が出てきます。

とげのある紅花

山形県の県花でもあるベニバナ。花弁は黄色いが、染めると紅に染まる。

・奄美 大島紬 泥染め

奄美群島には鉄分を多く含む粘土質の泥が分布しています。江戸時代には粘りのある泥が糸を黒く染めることが知られていました。奄美では献上品として昔から紬が織られていましたが、この泥染めの発見によって独特の光沢をもった黒を特徴とする「大島紬」が完成したのです。

島に自生する車輪梅の枝や幹を煮汁で染め、泥田に入って泥染めを行います。これを幾度と繰り返し、車輪梅のタンニン酸とカテキンが、奄美独自のきめ細かい泥に含まれる鉄分と反応すると、糸の表面に不溶性の化合物が生成されます。

糸をやさしくコーティングするこの化合物は化学染料では表現できない独自の深みのある黒を作り出します。また泥染めは糸をしなやかにする効果もあります。泥染めは魅力的な色味だけではなく、シワになりにくいという機能性も得ることができるのです。

この泥染めは奄美の風土でしかなしえないため、鹿児島産地の泥大島はわざわざ奄美大島で染めてから織られるほどです。

奄美の泥田

栄養豊富な奄美大島の泥田。幾度も泥染めを繰り返し、自然の恵みをコーティングする。

 

北と南の代表的な天然染料についてのストーリーを記しましたが、日本全国に魅力あふれる地元の素材を使った染め技法が伝わっています。シンプルな物であれば観光客向けに体験をさせてくれるところも多く、気軽に挑戦することもできます。実際に体験することでその商品に対する愛着もひとしお湧いてくるでしょう。

後編では機能的なところではなく、そのストーリーに着眼してみました。システマチックに無機的な化学処理(化学的には有機化学ですが)された染はどうも味気ないものです。一方、天然染料の製品はその魅力あふれる歴史、風土、人が介在するストーリーを纏うことになります。

様々な草木染の木

普段目にする身近な樹木からも染料を得ることができる。

 

前後編にわたり天然染料の魅力について紹介いたしました。天然染料を使うのはコスト高を考慮しても有り余る素晴らしい魅力があります。糸づくり、織にせっかく手間をかけたのですから染めにもこだわりを持ちたいものです。苦手とされてきた堅牢度も色褪せにくいよう工夫して素材を組み合わせたり、ほんの少しだけ化学処理をすることで改善されてきました。廣田紬では草木染に使った染料の素材をできる限り開示するようにしております。草木染にこだわった染織職人の商品、是非その魅力あふれる色合いをお確かめください

草木染証紙

丹波布

草木染証紙

久米島紬

 

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