前編では天然染料の機能的なメリットを紹介しました。後編では機…
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問屋の仕事場から
- 2017.06.29
- 天然染料の魅力を考えてみる(前編)
紬は織る前に糸を染料に漬けて染めることから、先染めの織物です。
その染料は本来、地元で採れる草木、泥、昆虫、様々な天然素材から色素を得ていました。
しかし安価で安定した化学染料が登場してから天然染料、草木染はほとんど使われることがなくなってしまいました。
今回は化学染料と比較しながら天然染料のメリットを考えてみたいと思います。
天然染料はその名の通り、天然資源から色素を抽出する必要があります。
天然資源である草木は限られた時期に限られた量しかとることができません。山に入って採集するだけでも大変な苦労ですし、そこからいくつもの工程を経てやっとできた染料が見込み通りの色と異なることも多いのです。数値の管理が困難で、同じ色味のものを量産することができません。
一方、化学染料は工業的に作られているため染料の質が安定しており、効率的に大量に作られることから非常に低コストなものです。そして天然染料が苦手な堅牢度(日光での褪色、洗濯での色落ち)をカバーしています。
それではなぜわざわざ高コストで耐久性に劣る天然染料を使用するのでしょうか。そして人々はなぜそれを魅力と感じるのでしょうか。
まず、天然染料のメリットをあげてみましょう。
・原料が自然由来なので安全性が極めて高い
化学染料の中には人体に有害な化学物質を含むものがあり、アゾ・アニリン染料がアレルギーの原因にもなるケースがあります。当然規制の範囲内で使用が許されていますが、現在安全とされているものも検証が不十分で後に禁止となる可能性もあります。古着の中には有害な染料を使い繊維が劣化して色落ちするものもあります。
もっとも自然からとれる染料がすべて安全というわけではありませんが、古来から使用されてきたので習慣的に問題ないことが確認されています。また藍などには防虫効果があることが科学的に実証されています。
これはどのような副作用があるかわからない現代のクスリ(西洋医学)と、安全性が経験により担保されている漢方薬(東洋医学)の関係に似ています。
・製造プロセスにおける人体、環境への負荷が極めて少ない
化学染料を作るプロセスでは大量の化学薬品をつかい、大量の廃液がでます。オペレーターも知らず知らずのうちに有毒なガス等を吸っているかもしれません。昔から染料工場で働く人の職業性癌の存在は知られています。
一方草木染は自然の草木を煮て、染残りを川に捨てるだけのことですので、自然を汚しません。当然作業者にも有害な影響を与えることもありません。手間がかかることから、大量に材料の採集が出来ず、森林を破壊することもありません。
これは農薬漬け、大量の化学処理をして生産される通常のコットンと、可能な限り自然な状態で生産されるオーガニックコットンに似ています。
また、重要なのが媒染材に何をつかっているかもポイントです。媒染材は色素を定着させる添加剤のような役割で、多くは自然素材ではありません。重金属を含む劇物であることもあり、染料自体が自然素材でも結局は環境負荷を与える薬品を使うことになります。絹糸の精錬にも薬品が使われますし、製造のプロセスにおいて化学薬品を使う以上、どうしても環境負荷を与えがちです。自然染料だからといって地球環境に良いという安易な売り文句に踊らされすぎないことが重要です。
染織家によってはこだわりぬいて、自然の力しか借りない方もいらっしゃいます。どのような製造プロセスで作られているか、じっくり吟味することが大切です。
・数値化できない優しい中間色が魅力である
化学染料は決まった材料、数値管理された環境で製造されているため均質な色が出て安定した染め上がりが期待できます。
一方、自然の様々な環境で育った草木は絶妙でランダムな色づくりをします。自然由来の優しい中間色は見るものを落ち着かせどこかホットさせてくれます。
化学記号では表すことのできない色素、不純物のなせる妙は、単純にRGBといった数値化できない色味をだします。紬糸の鈍い光沢と相まって何とも言えない魅力的な奥行きのある色を放つのです。
浅葱色、茜色、青竹色、小豆色、、、、 身近な自然を思い起こさせる色は
万葉集の時代から人々の記憶に残っています。
これは0 or 1で信号化されたデジタル写真と、ランダムの銀粒子が無限の色深度を生む銀塩フィルムとの関係に似ています。
後編では機能だけではなく、それぞれの産地の自然素材にまつわるストーリーを考えてみます。