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問屋の仕事場から

2018.04.26
きびそ糸で織り上げた工芸帯

カイコが繭を作るときに最初に出来た部分を生皮苧(きびそ)といいます。この部分は不規則な太さで硬質なため、絹糸を作ることができません。今回はあえてその生皮芋の糸を使って織り上げた工芸帯を紹介します。

カイコは本格的に繭を作る前に緒糸と呼ばれる糸を試し吐きしていきます。繭から糸を繰り出すときはまずこの緒糸を探しだすところ(索緒)から始まります。カイコが糸を吐くのに慣れていくと緒糸は徐々に生糸を採るのに適した品質になります。緒糸は繭全体の5%程になり、それらを紡ぎだしたのが「きびそ糸」です。

昔であれば屑糸として袋物や野良着の素材などにされていましたが、現在では細かく裁断して機械で紡績、シルク(絹紡糸)として立派に再利用されています。

するめのような太い粗い糸

スルメを裂いた乾きもののイメージがそのまま当てはまる生皮芋糸。

きびそを糸にしたものは生糸(21デニール)とは比べ物にならないくらいの太さ(2000~3000D)で、節糸というレベルではなく硬くガサガサの荒削りのヒモと表現してもよい代物です。昔はこれを野良着の材料にしていたのですから丈夫なのもうなずけます。織るときはかなり粗い筬でないと通るものではありませんし、見るからに織るのが大変そうな糸です。

この扱いが難しいきびそ糸を藍で染めて経糸に配置、緯糸にもきびそ糸を使って織り上げることで、面白い地風が生まれました。

生地を接写した写真がこちら、

ごわごわの表面

太い独特のきびそ糸が波を打っているのがわかります。元の糸自体が硬くこわばっているため糊付けは不要、緯糸も強く打ち込むことはできません。いささか硬質感が否めませんので砧打ちをして最終仕上げをします。そうすることで表面に優しさが生まれ、適度な弾力性をもった帯向けに最適な生地になります。

手前が柄(六通)部分、奥がタレ、手先のベース柄。

柄の部分(六通)は緯糸の打ち込みピッチを変えて格子模様を演出しています。

太く粗削りな独自の糸質はシルク100%だとはとても思えません。お蚕様が作り出したありのままの原糸は、人が手を加えて作った絹糸には出せない存在感を放ちます。生皮芋の独自の風合いをうまく利用した工芸帯は、生命力を主張する自然布を彷彿とさせるものなのです。

取り扱いが困難なきびその糸、廣田紬では素材感を活かした魅力ある商品作りにこれからも取り組んでまいります。

 

きびそ糸の束、本来であれば纏めて裁断されて絹紡糸に生まれ変わる。

粗野だが美しい帯

別のテイストの商品、緯糸に100%キビソ糸、経糸にはキビソ糸と玉糸を使用している。


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