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問屋の仕事場から

2024.02.15
数百冊にわたる紬の縞帳をデジタルアーカイブ

廣田紬では縞帳(裂サンプル集)をデジタルアーカイブ化しています

創業以来、幾万反という織物を作成してきた廣田紬ですが、そのほとんどの端裂(ハギレ)を保管しています。反物の端から数センチ程度を切り取りスクラップブックに貼り付けておきます。

反物幅が収まるスクラップブック、その名の通り縞模様の帳面。

産地ごとの様々な縞帳がありますが、やはり多いのは祖業から取り扱っている結城紬、なんとその数356冊!!大島紬や他産地のものも含めると700冊近い見本帳がありました。数十年にわたってスクラップブックへ貼り付けるという作業を連綿とやってきたわけですが、ここまでの染織資料が整然とそろっているところはなかなかありません。ものづくりを行ってきた製造問屋ならではの資料といえるでしょう。

普段これらはサンプル見本としてお客様からの受注や、新しい図案の参考見本として使われています。

しかし数百種類もの見本帳から任意の柄を探してくるのは容易ではなく、索引を作成してすぐに閲覧できる環境を整える必要があります。これら資料をすべてデジタルアーカイブすることで、整頓されたデータベースを作成、目的の柄を抽出しやすくなります。さらに無形物のデジタルデータとして保管しておくことで、火災や紛失(盗難はないかと思いますが)から守られ、有形資料のバックアップにもなります。

 

立命館大学ARCと連携して縞帳をデジタルアーカイブ

資料をデジタルアーカイブ化する取り組みは様々なシステム会社がソリューションとして打ち出していますが、大量の資料をデジタルアーカイブする際に問題となるのはそのコストです。撮影からシステムの開発、運用まで含めると数百万~という状況は公的機関や大企業でないと導入することができません。さらに様々な環境変化に耐えて、長く運用することが可能な信頼性が求められます。

ARC外観、立命館大学衣笠キャンパスに設置されている。

廣田紬の縞帳のアーカイブにおいては、経済性、信頼性を鑑みて立命館大学アートリサーチセンター(ArtResearchCenter:以降ARC)によるシステムを使用しています。ARCは有形無形の文化芸術資源を研究、分析し、記録、整理、保存、発信することを目的に1998年に設立され、日本のデジタルアーカイブにおける草分けという存在です。学術機関ならではの伝統文化への造詣も深く、文化的な資料として価値のある伝統工芸織物を取り上げてもらいました。

 

ARCのデータベースには様々な貴重な資料がデジタルアーカイブ、所蔵されていますが、廣田紬の資料もその末席に加わることになりました。

バラバラになっていた各見本帳のタイトルをナンバリング、インデックス化することでタイトル名から見本帳を引っ張ってくることができます。

 

見本帳の閲覧システムは今風のモバイルファーストデザインではありませんが、理にかなった仕様になっています。データベースから必要な資料を引っ張ってくることを突き詰めると余計な装飾は不要、クラシックなデザインに安心感があります。

見本帳を選択すると中身の一覧が開きます。

さらに1ページごとを選択して閲覧することができます。

それなりにクローズアップすることもでき、必要十分な解像度で写真を閲覧することが可能です。

 

やはり実物あってこその縞帳

紙の資料を廃棄することを目的にデジタル化を行うこともありますが、貴重な織物資料の場合は捨ててしまうわけにはいきません。オリジナルの現物があることでしか見えてこないポイントがあります。デジタルデータはあくまでも索引、閲覧用のデータであり、現物へのアプローチの手段、バックアップでしかありません。

商品作成の際に過去のデザインを再現するとなった場合はともかく、糸の具合や生地の風合いまでは伺い知ることはできません。モニター越しの写真より、実際の目を通じて布から伝わってくる魅力もあります。廣田紬では販売店様向け(サンプルとして消費者から別注を受けてもらう)に縞帳の貸し出しも行なっていますが、これがデジタルデータだとイマイチ実感が湧かずに失注してしまうことでしょう。

綿薩摩の縞帳、今では入手が困難な非常に細かな絣柄。

喜如嘉の芭蕉布の貴重な現物見本。

廣田紬では縞帳のデジタルアーカイブ化により必要なデータに迅速にアプローチすることを可能にしていますが、オリジナルの縞帳を大切に保管、現物を通じて織物の美しさを伝える用意があります。昭和の古き良きノスタルジーとなってしまった縞帳を見ながら、新しいものづくりについて談義する機会をいただければ幸いです。

 

 

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