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問屋の仕事場から

2021.08.26
織物づくりの極み、160亀甲の越後上布

世界一高価な布である越後上布、その中でも絣技術を駆使した160亀甲ともなるとまさに人類の宝と言えるでしょう。

お盆明け、古裂などの収蔵品の虫干しを行いました。

それらは防虫剤と一緒に保管してありますが、やはり空気に触れされてリフレッシュしてあげたほうが布のためです。東西に風が駆け抜ける(京町家は大変風通しのよい設計)2階の座敷に整然と並べられた古今東西の布々、古裂が好きな人にとっては垂涎の光景です。

虫干しで並べられた布たち、これだけでちょっとした展示会が開催可能。

外国の古裂がメインで、着物のコレクション自体少ないのですが、上記写真の左端、何やら白い襦袢のような着物がかかっています。

淡いグレーに見えますが、近づいてよーく見てみると、、全面が絣です。

それなりの距離(ソーシャルディスタンス)でもまだ無地に見える。

この生地は細かい亀甲絣が全面に入っていて、よほど近くで凝視しないと無地に見えるのです。

参考:奥が深い亀甲絣

さて、この全面亀甲絣の着物、なんと越後上布なのです。もちろん全て手績みの苧麻糸を使った本製のタイプです。

現在作られている越後上布の絣は簡易なもので、ベタ(全面)亀甲などはもはや作らていません。しかもこちらは亀甲絣の中でも非常に細かい160亀甲で作られています。反物の幅に160個の亀甲が並ぶという規格で、他の織物ですらなかなかお目にかけられない細かなものです。

奥が160亀甲の越後上布、手前側が大島紬の100亀甲

亀甲を構成する組織が異なりますが、大島紬の100亀甲の白地のタイプと並べて見ると160亀甲の細かさがよくわかります。

生地を拡大してみました。

生地の拡大、強い光をあてると黒に見えた絣が藍色(昭和51年以前に製造)であることがわかる。

経糸の4本に1本が絣糸、これは他の織物の160亀甲のタイプと同じ組織です。参考までに160亀甲の綿薩摩(薩摩木綿)の組織画像を掲載しますが、比較してまず驚かされるのはその糸の細さです。

越後上布は風の抜けが良い、透け感のある夏の麻織物です。透け感を演出するには織密度を下げて組織がスカスカになるパターンが取られがちですが、こちらは糸そのものを細くして、糸数を間引くことなく透け感を実現しています。

越後上布の糸は全て人の手で麻を割いて繋げ製造されています。そのように麻糸を績むだけで大変なのに、極細糸のみを選別して、さらに絣糸を作り、幾万とも言える絣合わせを経て織り上がる、、、途方もない苦労が偲ばれます。

遠目にはなんの変哲も無い無地の麻襦袢のように見えるが、、、

驚くべきことにこの着物、しつけ糸がついたままで、一度も着用されることなくコレクションとなっていたのです。

良き時代の名残なのか、バブルの産物なのか今となっては定かではありませんが、人類の残した織物文化の最高の頂、文化財級のお宝であることは確かです。

絹と違い、麻は経年劣化に強く朽ちることがありません。あと何年人類文化が続くかわかりませんが、何百年後にも最高の状態を保っていられるように毎年の風通し、メンテナンスを行って参りたいと思います。


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