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問屋の仕事場から

2017.10.05
TPOを考え、マナーを知ったうえでの紬着用のススメ

ツルが飛んだ大島紬

紬はいくら高級品であっても普段着の域を出ることはないとされています。「式」がつく行事はもちろん、改まった場にはふさわしくないとの考えが一般的です。しかし着物を着ること自体がハレと認識される昨今、若年層を中心にその概念が崩れつつあります。今回は紬をはじめとするお洒落着物のTPOついて考えてみます。

「きもの」「TPO」でWEB検索を行うと様々な見解が出てきます。消費者目線によるもの、販売店サイドの考え方、お稽古事の先生のルール、様々な考え方がありますが、フォーマルとカジュアルに応じた格の着物を着るという考え方は共通です。要は相手に対して失礼の無い装いを選んでくださいということで、これは洋装のシーンでも同様です。

昨今、フォーマルシーンのカジュアル化が進んでいます。人生で五つ紋の着物を着るのは片手で足りるという人も多いでしょうし、昔は紋付が常識であったシーンに三つ紋の着物を着ていくと仰々しがられるケースも出てきました。ガチガチに固められた着物マナーに嫌気がさした層によって、フォーマルシーンを少しでも気楽にしようという流れが加速しています。販売サイドでもしきたりに固められていた垣根を崩して消費者に提案するお店も増えていますし、消費者としてもせっかく買った着物はできるだけたくさんのシーンで使いたいというニーズがあります。昔のように嫁入り道具に一式そろえるということができなくなった今、当然の成り行きでしょう。

紬は野良着であった経緯から、普段着であるとの考えが定着しています。生糸をとるのに適さない「くず繭」由来の紬糸は、節糸を含む粗雑な糸でした。鈍い光沢を放つ紬地はどうしても生糸で織られた生地に比べ劣ってみえたからです。しかし現代の紬はくず繭は使わず、手間をかけて上質な糸を丁寧に織り上げられたものです。手織で人件費の塊である紬地は、自動機械で大量生産されたフォーマル着物用の白生地よりも高級品です。さらに男性の場合は無地の紬に紋をいれると略礼装でも十分通用することから、糸質を理由に格下に見られるのは解せないところではあります。

紋の入った生地

男性の場合は無地の紬に一つ紋を入れれば略礼装となる。写真は結城紬(杢無地)の羽織に刺繍紋。

実際に問題となるのはその柄行で、結城紬や大島紬、牛首紬の白生地に後染め加工をして訪問着とするケースがあります。一般的な紬織物が縞格子を中心とした素朴な柄、単色で染められているのに対し、これらは華やかな柄、多彩な色使いで晴れ着にふさわしい礼装感があります。紬の風合いを好むファンに支持され、晴れ着として徐々に市民権を得ています。

 

さて冒頭の写真、大島紬の仮絵羽仕立ての商品です。その名も「万鶴の調べ」、吉祥柄である鶴が数えきれないほど舞う大変豪華でおめでたい柄です。すべて先染め絣の贅沢この上ない大島紬、どういったシーンで着ればよいのでしょうか。

結婚式にとなると、大島紬(先染め)だからという理由でその場にふさわしくないと眉をひそめる人がでてきます。大勢の人が集まる結婚式、招待客は身内やよく知っている友達だけではありません。むしろ大半が知らない人であるケースがほとんどです。そのなかで「紬は普段着」であるという考えを持つ人に反感を持たれ、非常識と思われてしまうと、本人だけではなく、主催者側にも迷惑をかけてしまうのです。マナーにのっとるかではなく、周囲にどう思われるかが大切です。強烈な個性の持ち主であることが皆に知れ渡っている有名人である場合などを除いて避けるべきでしょう。

ツルの飛んだ絣

普段着、仕事着にはさすがに仰々しいので適さない。ここぞという時のおしゃれ着である。

一方、参加者が限定された環境(気心しれたお友達だけの二次会)などではOKです。格上の豪華な帯を合わせれば、お祝いの席のための演出、気持ちが伝わるのではないでしょうか。そしてお友達との食事会、趣味の集まりのとっておきの一枚として最適なものです。

紬好きの方は着物を心から愛する方が多く、紬の成り立ちや、着物の格についてしっかりとわきまえておられるはずです。マナーを分かったうえでTPOに応じ、相手にどのように思われるかを考えたうえでの着用でしょう。その人なりの考え方で礼を失することのない装いになっているはずです。そして明らかに相応しくないケース(式と名前がつく行事に普段着の紬や小紋、木綿きもの等)では、着物について本当に不見識な方ですのでやんわりと指摘してあげればよいでしょう。

 

礼節、しきたりを知ったうえでの紬着用は、状況次第でプラスにも捉えられることもあります。

・式事などで明確なルールがある場合はそれを守る

・パーティ等ではその性格と主催者側のドレスコードを確認

・結婚式の場合は招待客がどのような人か、両家に迷惑をかけないか

・お点前をされる場合は、亭主の意向に反してないか

上記のように目くじらを立てる人がいない状況で、TPOを考慮したセンスが光る紬の装い、これができれば反感を買うどころか、紬は最高に粋な着物になるはずです。

志村ふくみさんの青い横段の紬着物 

某有名作家の訪問着、彼女は紬の訪問着を結婚式に着用、紬で茶会という取り組みも開催している。

着物自体がハレで特別であるとのイメージが広がっている昨今、「どんな場合でも織の着物はすべて普段着」という硬直化した考えは多くの消費者のニーズに反するようになってしまいました。皇室行事や伝統芸能など、文化として守るべきしきたりを固持していくのは大切ですが、時代と共に生活習慣は変わり、人々の意識も現実に沿ったものになります。しかしTPOを考えた装いへの配慮自体はいつの世でも共通です。

「マナーを知った上でこそ許される粋な道はずし」 普段着である紬が従来の格を飛び越えてどのように活躍するか、今後の成り行きを見守りたいと思います。