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問屋の仕事場から

2020.10.08
素人でもわかる黄八丈の簡単な見分け方

結城紬にも劣らない高級織物の黄八丈、生産数が少ないこともありマイナーな存在ですが、いつかは一着と憧れの着物でもあります。そんな黄八丈ですが、結城紬と同じく名声にあやかった様々な商品が氾濫しています。玉石混交の中から本物の黄八丈を見極める方法を解説します。

そもそも黄八丈とは →  別稿 紬(野良着)ではない黄八丈 ~風土、歴史編~ を参考にしてください。

「キハチ」とも呼称される黄八丈、言うまでもなく八丈島で作られる伝統的工芸品の「本場黄八丈」のことを指します。島で採取された特定の植物染料で染めて、丹念に織られた織物は組合の厳しい検査をへて、組合の証紙(織り手や染色者の名前入り)、伝統マークシールが貼られて出荷されます。

伝統シール、製織者や染め師の個人名とスペック、栞(取説)、検査合格証が貼り付けられる。

この証紙類が何よりの証拠で、一目で黄八丈と判別することができるものです。反物がどのような織り方で作られたのか、長さなどのスペック、製織者の名前などがしっかりと記載されています。重さまで記載された証紙は数多い伝統的工芸品でも黄八丈だけではないでしょうか。

なお、独自のグループとして活動する山下めゆ工房製の商品も伝統的工芸品の技法で製造されたもので、本場黄八丈に準じたものです。組合を経由しませんので、こちらには伝統証紙は付与されません。独自のシンプルな証紙が貼り付けてあるのみです。

変わり子市松がアイコンのめゆ工房製の黄八丈、シンプルな証紙。

古い商品には先代の山下八百子さん銘が縫い付けられている。芙美子さんと連名だった時期も。

憧れの高級品としての黄八丈は本場黄八丈、山下めゆ工房製の2種類の商品のみということになります。

 

なお、生産数でいえば黄八丈より希少な秋田八丈もありますが、黄八丈とは別の織物です。

江戸期に黄八丈人気で類似品の生産が各地に伝播した名残の織物で、現在も秋田県で一軒の工房のみで作られています。植物染料を使い縞格子のデザインであることから黄八丈に似ていますが、組織織りではない織機で作られた平織の商品になります。

 

また、現在は夏黄八と呼ばれる薄物も作られていますが、糸の染色工程のみ八丈島で施されたもので、小千谷にて製織されています。

透ける生地

以前にも八丈島で染色をして、米沢で製織する企画商品がありました。これらも産地の優良誤認を目的とした織物ではなく「真面目」な商品です。しかしこれらは織機で作られているため、量産性のあるものです。一つ一つ手織りで作られる黄八丈とは手間暇が大きく異なることを知っておいてください。

 

 

まがい物のキハチ風織物シリーズ

昔から黄八丈の名声にあやかった様々なキハチ風の織物が存在しています。

旦那衆や町娘の間で黄八丈が流行したイメージがありますが、当時の生産量も今さほど変わらず、数百反という少量生産、さらに幕府の直轄地である八丈島で織られた黄八丈は御用船に載せられ、将軍家に献上されるという限られた流通ルートで、取り扱うことのできる人は極めて少ないものでした。

着物だけでなく帯にまで黄八丈が使われている浮世絵。https://ukiyo-e.org/より抜粋

浮世絵に描かれているように町娘に行き渡る道理がありません。察しの良いかたはお気づきかもしれませんが、米沢や十日町などの他産地からのキハチ風織物が市場を席巻したのです。先述の秋田八丈もその名残の一部です。たくさん出回っている類似デザインのほんの一部は八丈島産のキハチだったのでしょうが、様々な格子のデザインだけでは本物と偽物の見分けはつきません。

子供向けのキハチ風織物、こちらは綿の安価な織物である

本物とまがい物をどのようにして見分ければよいのでしょうか。

今回もカオスと化している「ヤフオク!」から商品画像を拝借、解説していきます。黄八丈とキーワード検索すると170件ほどがヒット、その中で本場黄八丈は50件ほどでしょうか。玉石混交とも言えるキハチ市場の中で特徴的な「まがい物商品」をピックアップしてみました。

 

まずは江戸時代から続く米沢物(のはず)、

黄色の地色に赤と黒の格子柄、わかりやすいアイコンのキハチ風織物です。親切なことにこの着物は商品紹介にも黄八丈風と記載があり、はっきりとキハチのまがい物であることが明記されています。子供用と思われる羽織もありますから、何かの舞台衣装だったのかもしれません。タイトルがあるからこそ瞬時に判別できますが、写真だけでは素人には判別が難しい例です。

製織途中の黄八丈、「丸まなこ」という地紋はあや織で作られる。

もっとも今回の商品はいかにもキハチという柄で、それを狙って作られたと推察できる商品でした。写真だけでは断定が難しい商品もありますが、その道のプロが生地を見ればしっかり織られた生地か判別することができます。

 

次はわかりやすい例、

タイトルには紺の黄八丈着物とあります。藍染した商品かなと思われる人もいるかもしれません。しかし黄八丈の植物染料に藍を使用することはなく、青色は一切使われません。この時点で完全にニセモノ黄八丈と断定することができます。

黄八丈とのタイトルをつけた出品者の意図がわかりませんが、格子の織物であれば黄八丈と言って良い風潮が蔓延しているのでしょうか。

黄八丈に使われる原糸、黄色、茶色、黒(濃淡でグレーにも)の3種類しかない。

 

お次もお色味が不思議な商品、

タイトルに本場黄八丈大島とあります。「泥」の記載もあり、大島紬と黄八丈の合作が思い起こされるネーミングです。手間のかかる泥染めをしているとは思えませんし、何が何だかわからない企画商品です。当然色味からして青やどぎつい赤はありえませんし、まがい物の代表格と言えるでしょう。

さらにレベルUPしたものがこちら、

先ほどの黄八丈大島と驚くほどデザインが似ています。証紙らしきものには「本場泥立体黄八丈」???とあります。立体というのは翁格子のデザインによるものなのか、畝織(間道織)風の浮き織りによるものか、怪しさ満点の商品です。

そして覚えておきたいのがこちら、

 

グレーの麻型の反物、織り端に黄八丈と織り込まれています。グレーの色自体は黒の濃度が薄いだけですから成り立つのですが、こちらは絣織物です。本来黄八丈は絣糸(糸の染分け)は一切ありません。絣柄がどれだけ凝っていて素晴らしい柄でも本物の黄八丈とは言えないのです。

 

番外編としてややこしいアイテムを発見、

 

絣柄のキハチ風織物、なんと伝統証紙が付いているではありませんか。一体どういうことかとよく見ると、村山大島紬の証紙に対する伝統マークです。「本草木染黄八丈紬」と別の証紙が貼り付けてあります。

本物の村山大島紬には間違いありませんが、黄八丈としては間違いなくまがい物でしょう。産地は村山、絣は琉球調、ネーミングは黄八丈、、、なんとも不思議な商品です。

 

以上、以前まがい物の結城紬を紹介しましたが、負けず劣らず不思議なキハチ風商品が氾濫していることがおわかりいただけたと思います。

商品の検査などが行われている組合の会館、屋根が独自の3色カラー。

 

本場黄八丈を見分ける方法まとめ

様々なまがい物が存在していましたが、見分け方はシンプルです。

1、証紙を確認、「本場黄八丈」の証紙と伝統マークの証紙が付いていれば本物

2、証紙が無い場合は生地の色を確認、3色(黄色系、茶色系、黒色系)の組み合わせ、もしくは単色で使われてれば本物の可能性あり。青、緑など存在しない色が少しでも入っていればそれは別の織物です。

3、無地、縞、格子柄であること。絵絣などの柄が入っていれば別の織物です。

必ずしも黄色が入っていなくても本場黄八丈と言える。地色が黒の黄八丈(黒八丈)

なお、素材は絹糸(広義のシルク)となります。ツルッとした平滑な絹糸で織られていていますので、節のある紬糸で作られた商品は黄八丈である可能性は低いです。しかしごくごく稀に紬糸で作られた商品も存在していますので、紬糸や節があるからといって即偽物と判断するのは早計ではあります。

組織の拡大、綾織で「丸まなこ」という地紋が作られている。

以上のことを確認するだけで、素人でも玉石混交の中からかなり整理することができます。

よくよく考えてみれば黄八丈は決められた3色(黄、茶、黒)を使ったシンプルな織物、デザインの模倣困難性が大変低い商品でもあります。様々なまがい物、ニセモノ黄八丈が次々に現れても本場が飲み込まれなかったのは、やはりホンモノを知る人によって愛でられた織物だったからです。

八丈島から望む八丈小島。黄八丈は島の豊かな自然と根気強い作り手の結晶。

まがい物の出現は江戸期にまで遡る「伝統的」な事象でもあります。しかし呉服のマーケット縮小によりまがい物は大きくなりを潜めてしまいました。まがい物がホンモノを際立たせる構図もヤフオクやメルカリといったリセール市場が中心となっています。

呉服売り場でこれらのまがい物にであることは滅多にないと思いますが、故人のタンスの中から出てきた謎の格子の黄色い織物、どのように鑑定すれば良いか、一助になれば幸いです。

 

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